■ばぐ 漫才

●エンドオブサマー 第6話「出動」 00/11/14●

「あー折角の夏休みだってーのによー」
助手席でソイヤーがぼやく。大声で。

森にキメラが居ることはめずらしいことではない。一時期乱造されていたお陰で、一様に分布してしまっている。
そういった所有者の居ないキメラは、野良犬、野良猫などと同じように野良キメラと呼ばれている。
そして、やはり中には他の生物を襲う獰猛なものも居る。
普段はキメラ専門のハンター達が退治しているが、手におえない場合はウチに話が回ってくる。
高額の報酬で。

ソイヤー、ノイエス、ジーカー、ガレードの四人は、主にこういったキメラの捕獲、退治を生業としている。



窓の外の流れる街を眺めながら、ノイエスが口を開く。
「でも久しぶりだよね〜、キメラ退治なんて」
「あー、そーだなー、前出たん何時だっけ?」
「6月12日、ですよ」
ソイヤーの問に、運転席のジーカーが即座に返す。
「よー覚えてとるなーお前は」
「なんかハルピュイアの変な奴だっけ?」
「んあー、そーだったかー」
さすがソイヤー。あまり覚えていない。
「なんかソイヤーさん・・・たよりない・・・」
パシリ・・・もとい、リュアが言う。
・・・・・・・・・・・・なぬ?
「り、リュアさん!?」
リュアは、トランクの中から小窓を開け、内部に話し掛けている。
ソイヤー達が車に乗ることを聞き、持ち前のスキルで忍び込んでいたのだ。
「なんでお前が居るんだよ!」
「だって・・・・・・ソイヤーさん・・・・・・途中でやめるんだもん・・・あ、次の信号で・・・」
赤信号で車が止まると、リュアはトランクから出てきて後部座席へ乗り込んだ。
「ソイヤーさん・・・途中で止めちゃうから・・・・・・あれからそのまま我慢してるんですよ、僕・・・」
「・・・・・・・・・」
良く見ると、彼女の顔は紅潮しており、息もかなり荒く、体は小刻みに震え、太腿のあたりはぐっしょりと濡れている。
絶頂を迎える寸前でお預けを喰らい、そのままの状態で数十分トランクの中・・・肉欲は最高潮に達している。
「あーもうしょうがねーなー、ガレード、俺後ろ行くからお前助手席回ってくれ」
・・・と、赤信号の隙にガレードは仕方ないなぁという表情で助手席に回る。ソイヤーは後部座席に移動し・・・
「あまり汚さないでくださいね」
「そりゃ無理な注文だぞ・・・っと、ほら、やってやるから・・・って、おいそんな抱きつくなって・・・」
「はやく・・・・・・めちゃくちゃにして・・・」
「・・・・・・・・・ああ・・・」






窓の外に流れる風景は、いつのまにか緑色に変わっていた。
夏ももう終わりだが、木々はまだ青々と繁っている。
蝉の合唱が一帯に響き渡っているが、クーラーをかけている車内には聞こえない。
そのジーカーの漆黒の車は緑を切り裂き、淡々とキメラの棲む森へ近づいてゆく。













一行は、森の入り口から車を降り、キメラの目撃地点と思われる辺りへ歩いてゆく。
時刻は午後5時を回っている。

「この辺・・・だよな」
巨大な刀を片手にソイヤーが呟く。
「そうですね・・・」
ジーカーが合いの手。そこへ、大きな乳房を弾ませながらリュアが駆けて来る。
「はぁ・・・はぁ・・・疲れた・・・・・・」
手を膝につき呼吸をする。
1時間くらいは歩いただろうか・・・すっかり歩き疲れていた。
車内で待っていても何もやることもないわけで、彼らと一緒に行動する事にしたわけで。
「ここまで来ちまったんだから、最後まで付き合えよ・・・」
「はい・・・わかってます・・・・・・」
彼女は近くの小岩に腰を下ろし、呼吸を整える。
まあ、車内で延々とやっていたせいもあるんだけどね・・・足腰立たずに歩くのもままならなかったんだから・・・・・・
そう考えるとソイヤーは強いなぁ。

森の中でも、木々がなぎ払われていてただっ広く空間が空いている。
目撃地点とも合致している。間違いなく此処であろう。

「でも、全然気配無いよ?」
ノイエスが辺りを見回して言う。
「ああ・・・つーか生き物の気配が全くしないぞ」
「なんか・・・気味悪いですね・・・・・・」
一行は辺りを見る。ガレードは目を閉じて集中している。



突然、地鳴りにも似た音が轟く。木々がざわめき、遠くで小鳥達が飛び立ってゆくのが判る。
「地震・・・?」
「来たか!?」
・・・・・・
「あれ? 止んだ・・・・・・」
直後、五人を巨大な黒い影が覆う。
「上か!・・・・・・でっけー・・・なんじゃありゃ・・・」
「落ちてくる・・・落ちてきますよ!!」

着地・・・その衝撃は凄まじく、地面のあちこちで隆起が起こる。

「ターゲットはこいつです・・・間違いありません・・・」
5人に背を向ける形で着地したそのキメラは、カンガルーのような脚に、巨大な胴体。背にはヒレのようなものが無数に有り、一見悪魔のような頭は腹の辺りに付いている。 両腕は形状が大きく違い、全身硬い鱗のようなもので覆われている。体長は20mはあるであろう、かなりの奇形である。
「完全に失敗作だろ、こいつ」
「ベースになっている生物も特定できませんね・・・・・・」
「だ、大丈夫なんですか・・・?」
リュアは怪訝な面持ちで訊ねた。
「とりあえず・・・、死ぬなよ」
「うぅ・・・は、はい・・・・・・」
彼女は一目散に遠くの木陰へ避難した。

ゆっくり・・・と、その奇形キメラはこちらを向く・・・・・・
・・・よりも早く鞭のような左腕が襲い来る。
「うわっ!!」
ノイエスをかすめ、十数メートル先の木々をなぎ払う・・・間髪入れず、ゴーレムのような右腕が振り下ろされる。
「でりゃっ!!」
回避しながら腕を切りつけるが、おそらくゴーレムの物であろう腕。いとも簡単にはじき返された。
「右腕はツブせねぇな・・・せりゃっ!」
今度は胴体を切りつけるが、傷一つ付けることが出来ない。
「・・・・・・こりゃエビルドラゴンより硬ェ・・・」
「バニッシュリング!!」
キメラの腹部・・・ちょうど顔の辺りを捉える・・・が、2、3度体を振るい、再び攻撃態勢に入る。
「こんなもんじゃ歯が立ちませんか・・・」

キメラは鞭のような左腕をもう一度振ってくる。
「はぁぁぁぁ!!!」
ガレードはキメラの左側に回りこみ、腕の根元・・・肩と思われる部分を思い切り突いた。
キメラは体を揺らし左腕を収縮させる。効いているようだ。
「打撃か・・・・・・ノイエス、あの右腕のゴーレムみてーな奴のコピー出来ねぇか!?」
「やってみる!」
しかしキメラはすぐに左腕を鞭にして振るう・・・ノイエス目掛けて。
「危ない!!」
「フォトンスライサー!!」
岩石をも切り裂く光の刃は見事に左腕を切断した。
「ナイス、ジーカー!」
吹き飛んだそれは、リュアのすぐ近くへ墜落する。
「ひゃぁぁぁっ! やだ・・・もう・・・」
「グルルルルル・・・・・・・・・」
キメラは身体を震わせ・・・左腕の切断された箇所が蠢く。そしてそれは一瞬で起こった。
「・・・って、嘘だろ〜・・・」
再び現れた左腕・・・いとも簡単に腕を再生させたのである。
これほどの再生能力を持ち合わせる生物は他に類を見ない。もしかしたら独自のモンスターなのでは、とも思わせられてしまう。
・・・そして再び、その元に戻った左腕でなぎ払ってくる。
「ゴーレムにトロルに・・・ベヒーモス? あと何だろ・・・わりと豪華みたい・・・・・・」
「打撃でもダメージは一時的なものか・・・」
「切り刻めたとしても無駄に終わるだろ・・・くそっ・・・」
「とにかくやるっきゃない・・・」


















管理人「ぶえーっくしょい。ずるずる」





つづく。

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