ある日の俺的番外2
長いハナシはこんな感じにノベライズする事もあります。
しかもロビーの漫才と連動してたりもして。その辺のご理解を。


 ERSの大改造から数日、久々にゆっくり出来るかと思いきや、演出役の俺が許してくれるはずもなく、新たな台本を渡されたりして。
・・・こりゃ、殺されるかも。

 2000/3/某日
 例の事件をきっかけに雅と典が急接近。しかしいつも一緒にいたがるのは雅だけで、典はほとほと困り果てている様子。秀と壮が輪をかけてからかうもんで彼のストレスは貯まるばかり。それでも今日はデートの誘いを渋々承諾したようで。

 二人はやたらと広大な敷地を歩いていた。俺的の家屋は広すぎる土地の一角にすぎない、ほとんど未開の土地とも言える荒野を市街地へ歩いていくのは成る程、確かに壮の瞬間移動を使いたくもなる。
「しかし広いな、これだけの土地がタダってのが信じられん」
典はいつもの一張羅、Tシャツにジャケットだ。
「車にすればよかったね」
飾り気のない典とは対照的に、雅の格好はよそ行きだ。布製のスカートなんざはいてやがる。
「誰が運転するんだ?」
「そっか」
 くだらない会話に花を咲かせながらようやく外塀が見えてきたところだった。
低い地鳴りのような音が辺りに響きだした。
「なんだろ?」
新型集音マイクのお陰かなり上昇していた聴覚で雅がそれに気付いた。音はどんどん大きくなり、大地が大きく揺れた。
「うわっ!地震?」
驚いて典にしがみつく。
「まさか・・・電脳空間だぞ、ここは」
信じられないような顔で典もその場に凍り付く。
しかし揺れは二人を嘲笑うかのように更に激しさを増していった。そして遂に立っていられなくなるまでの揺れになった。
「な、んだ・・ってんだ」
激しい揺れのせいでそこら中に隆起や陥没が起こり、一帯が荒涼とした景色に変わってしまった。
 ようやく揺れが収まると、敷地のほとんどが原型を留めていなかった。
一帯を取り囲むような地割れが続き、外界と完全に遮断されてしまった。
「侵入者・・・か?」
典の表情が厳しさを増す。何者かの気配があたりで殺気を放っていた。
「み、みんなに知らせてこようか?」
恐る恐る雅が声をかけた。
「ああ、頼む」
「うん」
頷き、走り出した雅の足下をまるでそれを阻止するかのように巨大な爪が突き上げてきた。
「うわぁぁ!!」
しかし、持ち前の運動神経でそれを回避し、高々と掲げられた爪はすぐに引っ込んだ。
「なによぅ、今の」
起きあがりながらぶつぶつ言う雅に典が叫んだ。
「来るぞ!!」
これを聞いて雅が前方へ飛ぶのとさっきの爪を含めた4対8本の爪が天高く突き上げられたのはほぼ同時だった。
初めに襲ってきた爪と対になっているもう一本の先端が三本に分かれ、大地におろされた。後ろの3対も同じように地面におりている。
「足?」
それはまさに節足動物の足に酷似していた。胴体になる部分を持ち上げようとしているのか、凄まじい力で踏ん張っているのが土への食い込みで解った。
 「離れるぞ」
相手が出てきたときのことを予測して典が雅を促す。
10メートルほど離れたところでとうとう相手の身体が持ち上がった。
「うわぁ・・・蟲だぁ」
見るからに硬そうな外骨格に節くれ立った関節、巨体に似合わない小さな目、そして触角。まさに甲虫そのものだったが、全長15メートルはあろうかという巨体は、地上のどんなものにも似ていない。
「悪性ウイルス・・・駆除しても間違いはないな」
「やっつけるの?」
「その通り!」
二人が動き出した次の瞬間には同じ場所に深々と敵の爪が突き立っていた。

 正門近くに二つの影が並んでいる。
二人とも赤いランドセルを背負い、底の見えない谷底をのぞき込んでいた。
「何これ・・・」
「底なしだね」
華と麗だ。学校から帰ってきたらこのざまなのでびびっているようだな。
「なんか山とか出来てるし」
「だんちょーのイタズラかなぁ?」
「ここまでやらないでしょ」
とりあえず麗が仮の橋を架けてこちらに渡ることが出来た。
 「おねーちゃん、あれ何だろ?」
しばらく歩くと、麗が遠くに何かを見つけた。
「・・・どこ?」
麗の五感はERS最高を誇っており、華には感じられないものも敏感に察知できる。無論、本人がその気になれば、の話だが。
「ほら、あそこ・・・でっかい何かが動いてる」
「ホントだ・・・土煙が邪魔でよく見えない」
ひょい、と麗がどこからともなく双眼鏡を取り出した。
「どこに持ってたの?それ」
「お兄ちゃんに教えてもらったの」
お兄ちゃん、何故か麗は壮をこう呼んでいる。系統が似ているからだろうか。壮は空間制御能力を応用して、どこからでも専用データベースから道具を取り出すことが出来る。簡易的なものを持つ麗がこれを教えてもらったのだ。
「んーと・・・あれ?雅おねーちゃんと典さんがいる」
「貸して」
華が双眼鏡をのぞき込む。確かに、雅と典が巨大生物と格闘していた。
「お姉ちゃん、何も装備してない・・・」
典はアーマー代わりのジャケットを常時着ているが、最近色気付きやがった雅は普通の服だ。機動力、防御力に難点がある。
「麗ちゃん、私とお姉ちゃんのアーマー出せる?」
「アーマーはあるけど、武器は無いよ」
言いながら赤と緑のアーマーを具現化させる。華が現れた緑のアーマーをつかむと、瞬間的に装着された。少し間をおいて雅の赤いアーマーを担ぐと、華は駆け出した。
「みんなに知らせてきて!」
叫びながら走る彼女の姿はすぐに米粒ほどになった。
 「・・・急いだ方がいいよね」
麗もそこから走り出した。

 敵はその巨体から想像できないほどに俊敏だった。おまけに滅茶苦茶カタイ。ガントレットを装備していないとはいえ、雅の正拳でさえ傷一つ負わせることが出来なかった。
そこで典がまだ背中よりは装甲の弱そうな腹の下に潜り込んだ。
「正義流裏四番・・・」
構えた右手が鈍く光る。それはだんだんと強さを増し、白く輝く光の弾となった。
「臨破!!」
高エネルギーの塊を乗せた突きがまっすぐ直撃した。しかし、エネルギーを爆発させて相手を攻撃するこの技もこの巨大な甲虫にはさして効果は無かったようで、ただ典の腕にしびれが残っただけだった。
「なんてぇ硬さだ・・・」
手をさすりながら怪物の腹の下から抜け出すと、ちょうど華が雅にアーマーを渡していた。「華ちゃん、学校は?」
「土曜日だよ、今日」
例によって、雅がアーマーに触れると簡単に装着された。分子レベルの配列構成を記憶させて云々。とにかくスゴイ技術なのだ。
「・・・そうだよ、せっかくの土曜日だからデートに行こうと思ったのに!!」
忘れていたのか、こいつは。
「よくも邪魔したなぁ!!」
しかしこいつなりに闘う理由が出来たのでよしとしよう。
 雅は無謀にも敵の眼前に飛び出し、大技の構えに入った。
「人の恋路を邪魔するやつは・・・何だっけ?」
どざぁっ!(二人ともこけた)
「バカが・・・」
「”馬に蹴られて死んじまえ”だよ」
雅にそんな二人のツッコミが聞こえたかは不明だが、勢いよく両腕を振り上げた。
「正義流表六ば〜ん!」
これを聞いた二人の顔から血の気が引く。
「ちょっ・・・お姉ちゃん!!」
「ばっか!!んなもんぶっ放したら・・・」
無論、雅に二人の制止が聞こえるはずもなく、高々と飛び上がり、振りかぶった両腕でエネルギー弾を投げつけた。
「真輝!!」
ソフトボール大の黒い光弾(光ってるかは解らないけど)が相手の背中にぶつかる。
次の瞬間、辺りの光を全て飲み込むかのような闇が広がった。
「やりやがった・・・」
自分の指先すら見えなくなるほどの暗闇の中で典がつぶやいた。
 やがて闇が晴れ、辺りが元の明ると、あの怪物は影も形も残っていなかった。
「無茶しやがる」
極小のブラックホールを発生させて相手を消し去る荒技だ、一歩間違えば惨事になりかねない。
「て〜ん!スゴイでしょ」
手を振りながら雅が走ってくる。気楽なもんだ。
「スゴイって・・・」
典ばかりか華までもあきれかえっている。まぁ当然と言えば当然だが。
「あのなぁ、上手くいったからいいようなものの・・・」
頭を掻きながら文句を言おうとした典の顔がふと険しくなる。
「おい・・・」
彼の視線の先に広がる空間が歪み、一点に墨をたらしたかのような黒い染みが現れた。
「どうやら、効果無いようだな」
染みはどんどん広がり、やがてあの怪物の形にまで広がると漆黒の影は立体的になり、遂に元の状態に戻ってしまった。
「うっそ・・・」
怪物は無機質な目でこちらを睨みつけ、針金を束ねたブラシのようなものが並ぶ口を開いて耳をつんざくような雄叫びを上げた。
「ガラス引っ掻いたみたい・・・」
三人とも顔をしかめ、とにかく近くの岩陰に隠れた。怪物はなおも叫びながら暴れている。
 様子をうかがいながら典が言った
「合図で飛び出せ、フルパワーでやるぞ」
二人とも無言でうなずく。
「3・・・2・・・1・・・GO!!」
合図と共に典が正面から飛び出す。雅と華はそれぞれ左右から走りだした。
「裏伍番!斜刀!!(空中からの蹴り落とし)」
「表壱番、散鎌!!(衝撃波)」
「表伍番!天破ぁっ!(ジャンプしてダブルハンマー)」
各々の大技が炸裂する。足を5本破壊された怪物は狂ったように暴れ出した。
「奥義!雀翔!!!」
典が着地と同時に奥義を発動させた。両腕から放たれた羽ばたく鳥の如き真紅の焔が怪物を飲み込む。
「ギャァアァァァァァァァァアァァ!!!」
凄まじい雄叫びを上げ、怪物はその場にくずおれた。

 一方そのころ、地震だ地震だと大騒ぎしていた俺等のところへ麗が駆け込んできたが、
「うわっ・・・」
棚やら観葉植物やらが散乱した玄関を開けた途端に退いた。
「あぁ、お帰り・・・あんた達も手伝いなさいよ!!」
一人で片付けをしていた優が廊下の奥にほうきを投げつけた。
「ひょい、それどころじゃねぇの」
秀だ。飛んできたほうきを避けて二階へ行ってしまった。
「・・・ッ」
おっそろしい目で階段を睨み付ける。あれが俺なら確実に撃たれてら、はは。
「あ、あのね、おねぇちゃん」
恐る恐る麗が口を開く。
「ん?何?」
先程とはうって変わった顔で聞き返してきた。さすがに15も離れると優しくなるもので。
「実は・・・」

 話を聞いた優と麗が戦略司令室(俺の私室)に駆け込んでくる。廊下は走るなよ。
「おぉ、ちょうど良かった、とりあえず出動人員な、秀と優は三人と合流。壮は五人を援護。んで栄は待機、麗は休んどけ」
我ながらすばらしい人選。っても基本に忠実なだけで。
「んじゃ行きますか」
秀と壮が普通に出ていく、優だけは武器とかの設定があるので直通の専用出撃ゲートへ向かったが。

 「基本装備な、50マグナムにA.E.弾8×3、あとは50ミリライフルと弾丸30発、これだけありゃ十分だろ」
兵器格納庫から自動で火器が運び出されてくる。
「う〜ん、マグナム弾あと2つ出る?」
「おう」
追加でマガジンを2つ転送する、気前いいなぁ、俺。
「おっし、今回認可する専用装備はこれだけだ、好きなだけ持って行け!」
PCのディスプレイ上に並ぶ武器名を全て選択、認可キーを押す。さて、どんな反応をするか。
ややあって優がしゃべり出した。
「・・・ちょっと・・・」
「ん?どした?」
「パラサイトボムとか追尾式ミサイルランチャー、プラズママグナムまでは解るわよ、カタそうだもん、でもラバーズ・エッジにバスタード・レイなんてホントに必要なの?」
思った通りに反応してくれる。おもしれぇ!!
「それだけじゃないぞぅ、よく見てごらんなさいな」
「メキドフレイムまで・・・何か知ってるんじゃないでしょうね、あのバケモノのこと」
ぎくぅっ!そう来るとは思わなんだ。
「ま、まさか!見たこと無いやつだから一応認可しといただけですがな」
しどろもどろになりながらも言い訳が出来た、ふぅ。
「・・・まぁいいけどね、どうせ使わないだろうから」
さ〜て、それはどうだか。
 そんなこんなで三人が出撃。面白くなるぞぅ!

 紅蓮の焔に灼かれ、倒れた怪物はぴくりとも動かなくなった。
「はぁ、すっごい威力・・・」
呆然としながら華が倒れた相手に近付く。
「それにしても大きいねぇ・・・王蟲みたい」
王蟲って・・・まぁ何の気なしにモデルにしたかもしれんが。
「えいっ!!」
いきなり雅が怪物の足を殴りつけた。しかしいくら焼けこげていてもその硬さは健在だったようで。
「いっ・・たぁ〜・・・」
手を振る雅を見るともなしに眺めながら、典の視界で何かが動いた。
「?」
何が動いたのか確認しようと目を細めたが特に変わったところはなかった。
「気のせい・・・か?」
怪訝な面持ちでふと別の場所に視線を動そうとしたそのとき、今度は見逃しようもないほどにはっきりと、怪物の目が動いた。視線の先には手をさすっている雅がいる。すすで黒ずんだ爪がかすかに動いた―――典は何も考えずに動き出した。そして・・・
 びしっ・・・!
典の身体は巨大な爪の一振りであっけないほどに宙を舞った。
「うぁっ!」
どさっ、と地面に落ちる典の体、彼はぴくりとも動かなかった。
「典!!」
典の決死の体当たりで事なきを得た雅が転びそうになりながらも駆け寄る。
「しっかりして、ねぇ!」
涙目で雅が呼びかける。しかし典は応えない。
「ちょっと、嘘でしょ・・・・・」
見る見るうちに両の頬を涙が滴り落ちる。
「やだよ・・・そんなの・・・」
典の胸を揺さぶりながら泣いている雅の横で華は呆然と立ちつくすしかなかった。
 小刻みに震えている雅の肩にそっと何かが触れた。
「!!」
「バカが・・・あの程度で死んでたまるか・・・」
典が左手で触ったのだ。・・・まったく、脅かしやがる。
「ショックで気を失っただけだ、俺に構う暇があったらアレをどうするか考えろ」
起きあがりながら顎でしゃくった先では、あの怪物が立ち上がり破壊された足を再生させていた。
「よかった・・・」
雅に笑顔が戻る。
「よくねぇ・・・くそっ、馬鹿力が・・・」
典の右腕は大半の機能を失っていた。修理大変だぞ、こりゃ。
「大丈夫ですかぁ?」
恐る恐る華が問いかける。出血はないにしろ、怪我したの人を見るのは好きじゃないからな、こいつ。
「俺達はロボットだぞ、痛覚なんてどうにでもなる・・・緊急時に限ってだがな」
正確に言うと緊急時における負的感覚遮断システム(痛みや恐怖といったマイナス感覚を一切排除して闘う機能で、発動時はまさにバーサーカー)はJUSTICEにしか搭載してないんだが。
 「雀翔でも生きてるとはな・・・三人同時に奥義を撃つか?」
「秀さんがいればねぇ」
ここにいる三人と秀の持つ、東西南北を司る四神の名を冠した奥義を同時に発動させることでその威力は何倍にもふくれあがる。
「麗はきちんと伝えたんだろうな」
「それは大丈夫だと思うけど・・・」
典達がぶつぶつと話し合っているところへ怪物の爪が襲いかかってきた。
それぞれ散開して一撃をかわす。
「とりあえず三人同時にいくぞ!!」
叫び、奥義の構えに入った典を怪物が襲いかかった。二度は喰らわないと言いたいのだろうか、猛烈な勢いで矢継ぎ早に攻め立ててくる。
「何っ!!」
巧みな動きで攻撃をかわし続けていた典だが、飛び出していた石につまずいてしまった。バランスを失った標的めがけ怪物が爪を振り上げる。
「くっ・・・」
典は完全防御の姿勢でこらえようとしたが、一向に攻撃してくる様子がない。不思議に思い見上げると、振り上げた足の先がきれいに吹き飛んでいた。
「どーやら間に合ったみたいね」
思いがけない方向からよくなじんだ声が聞こえた。
「おねーちゃん!」
雅が龍醒の構えのまま声を上げる。見れば、優が50ミリライフルを携えて立っていた。
「力自慢が三人揃ってこのざま?って、まだ来てないの?秀達」
続けざまに三発ライフルを撃ち込みながら典を立たせる。片手でライフル撃ってるよ、このひと。
「壮の瞬間移動じゃ座標の指定は出来ないんです、走って来るでしょう」
典が説明する。ただっぴろいのも考え物だな。
「典君、あなたそれ」
優が典の腕の異変に気付いた。はは、と苦笑しながら典が白状する。
「ええ、完全に折れてます・・・奥義なんて撃ったら取り返しききません」
「・・・・・」
しばらくの間、優はさらりと言ってのけた典を無言で見つめていた。ダーク・レッドの瞳から強い意志が覗いている。
「だけど退くのも勇気よ・・・雅!!」
一言告げると振り向いて雅を呼びつけた。
「な〜に?」
「典君守ってなさい」
「おねぇちゃん一人でやるの?」
優は少し笑って剣を抜きはなった。これが答えだ、と言うように。
「離れてたほうがいいかもね、もしもってことがあるから」
「来るよっ、お姉ちゃん!!」
ライフルの牽制で離れていた怪物が再び突進してきた。既に爪を構えている。
「華っ、あんたも下がってなさい!」
優がマグナムを片手で乱射しつつ走り出す。
凄まじい連射で全ての弾を撃ち込むと同時に銃を投げすて、両手で剣を構えて飛び出した。青い尾を引きながら地面すれすれを飛んでいく姿はまるで彗星のようだ。
 「はあぁぁぁぁぁ・・・」
怪物の真正面で急上昇し、大上段に構えた剣を怪物の眉間めがけて思いきり叩き付けた。「でやあぁっ!!」
どがっ・・・!!
金属が砕けたような鈍い音がして剣が止まった。切っ先は怪物の外骨格をかすかに傷つけた程度だった。
「うそ・・・アルテマイトの剣よ・・・オリハルコンよりカタイのに・・・」
オリハルコンよりカタイというのはもちろん当社比です、あしからず。
愕然とする優を嘲笑うかのように怪物が雄叫びを上げた。
「・・・そう・・・だったら手加減なんてしないわ・・・」
剣を納めてゆっくりと飛び上がる。目が怖い、目が。
「アッタマきた!消し飛ばしてやる!!」
一言叫んで両手を組んだ。いよいよアレを発動させる気だぁ。

 「・・・おねぇちゃん、まさか・・・」
雅の顔が引きつる。自分もとんでもないことをやらかしたがこれから優がやるのはもっととんでもないことだと予想がついたからだ。
「仕方ないだろう、何も効かないんだ・・・メキドフレイムでも倒せるかどうか」
突然消えた相手を捜してきょろきょろする怪物の頭上で優の最上級兵器アクセスコード詠唱が始まった。

 優の扱う武器は一般武装と専用武装がある。
前者は誰でも(国とかから特別な許可があれば)扱える火器だが、後者は俺の創り出したモノで、優の手のひらに内蔵されている識別コードを通さないと安全装置が解除されない仕組みになっている。これから発動させるメキドフレイムは、それら専用装備の中で最も凶悪な威力を秘めているので、暴発しないように団長の認可と優自身によるアクセスコード詠唱がないと動かないのだ。まぁ、解りやすく言えば武器を使うための呪文だと思ってもらえれば。

 優の組んだ手が青白く輝きだした。エネルギーの充填が始まったのだ。
優は瞑目したままつぶやくようにアクセスコードを唱えている。
「天に普く精霊達よ、我が声を聞き今ここに集い賜え・・・」
組んだ手に現れた光はだんだんと腕全体を包み込み、一つの砲身を形作っていった。
「遙か天空より飛来せし神の炎よ、我が肉体をかりそめの器とし金色の矢となりて現世に現れよ・・・」
光はやがて色彩を無くし、白い輝きだけとなりながら砲身の先端へ集まりだした。
 優は体内に流れる全てのエネルギーが砲身に集まるのを感じていた。
そしてしばらく無言のままエネルギーが完全に充填されるのを待つ。次の一言で安全装置が外れ、発射可能になる・・・エネルギーが臨海に達した。
「・・・我が一声は全てを灼き尽くす!!」
かっ、と目を開き、眼下の怪物に目標を定める。
「受けよ!メキドフレイム!!」

   ほとばしる光、轟音、そして衝撃。
まさに天の焔、怪物はドーム状になったエネルギーの中に消えた。
「ざっとこんなもんよ・・・」
近くの岩の上に降り立つと同時に翼が消滅する。エネルギーの9割を放出してしまう武器のため、立っているのもやっとだった。近くにいた華が駆け寄る。
「お姉ちゃん、平気?」
膝をついた優を抱き起こす。かなりアンバランスな画だ。
「どう?倒した?」
荒い呼吸で華に聞く。最新のチャージユニットを使っても最低100秒は動けない。
「まだ解らない・・・」
爆煙のなかに動くものは感じられなかったがさっきのようなこともある、油断は出来ない。
 うっすらと煙が晴れ、怪物の影がおぼろげに見えてきた。やはりメキドフレイムを持ってしても消し去ることは出来なかったようだ。
「まだ生きてるわ・・・やんなっちゃう」
エネルギーのチャージが終わり、優が立ち上がる。
「どうしようか?」
もはや笑うしかない、さすがに無傷ではなかったにせよ、直撃した部分だけしかダメージを受けていないようだ。怪物がゆっくりと爪を振り上げる。
「―――っ!!」
一瞬だった。優が怪物の攻撃に気付き華を突き飛ばしたが、運悪く自分がそれを受けてしまった。
「やってくれるわね・・・」
左胸を貫かれ、吹き飛ばされつつ右腕のバスタード・レイを撃つ。メキドフレイムを除けば間違いなく最強の威力を誇る光の柱だったが、あっけなく弾かれてしまった。
「悪夢だわ」
どさっ・・・優の体が岩場から5メートル位の地面に落ちる。途端に赤い染みが広がる。
「おいっ!なんかヤバイぞ!!」
遠くにいた典達は一瞬の出来事だったために事態が把握できなかったが、優の体はどう見ても自分で降りたとは思えない姿勢だった。雅がすぐに走り出した。典も後を追う。

 がしゃん!ぱりーん!!くわわわんんんん・・・
「あ〜・・・ごめんなさぃ〜・・・」
キッチンで皿洗いをしていたキャラメルが悲鳴を上げる。
「どーした?なにやらかした?」
「ご主人様ぁ〜・・・お皿運ぼうとしたら全部落っことしちゃいました〜」
気の弱い彼女は既に涙目だ。なるべく刺激しないように話しかけねば。
「あまり無理しなくていいから、皿なんていつか割れるもんなんだからな・・・」
ぐすぐすと泣きながら割れた皿を集めて袋に入れる。そんな仕草もまた可愛らしい。
・・・しかしよく見れば割れた皿全部個人用じゃねぇか・・・やーな予感が・・・
「だんちょー、あたし用意してたほうがいいのかなぁ?」
麗が何気なく聞いてくる。こういうことに敏感だなぁ、こいつ。
「あぁ、そうだな・・・」
開発室(兼研究室)の一般入り口を封鎖する。緊急手術が必要なら注文どころじゃない。麗はてきぱきとツールの用意をしている。
 設計図を元に一から造ったり、バージョンアップなどを行う場合はプログラムとメモリーのバックアップを用意できるが、外傷などを受けた場合の緊急手術にはそれが適用できない。記憶中枢へのダメージにもよるが、損傷を受けたメインメモリへのアクセスが原因でソフトウェアが壊れてしまう可能性もあるためだ。まぁ、最悪の事態に備えて一定期間でバックアップをとる機能を持たせてはあるが。
 そんなこんなで転送機のスイッチがオンになった。
「・・・おいでのようですよ、急患一号」
壮の瞬間移動では座標の指定こそ出来ないが、転送機が設置されていればダイレクトで移動できる。・・・動く転送機ってところか。
「残念ながら二人だよ、栄」
転送機の上で壮がぼやく。なるほど、肩に優、脇に華を抱えている。・・・ってゑ?華?
「なっ・・・」
栄が立ち上がる。そりゃーびびるわ、左胸に穴と全身黒焦げじゃなぁ。
「こりゃひでぇな・・・直せるか、麗?」
彼女は気丈にもベットに寝かせた二人の損傷具合を確かめている。華の方はまだ意識があるが優はぴくりとも動かない、保護機能が働いていればいいが。既に人工血液は流出し尽くしてしまったようだ。傷は大したこと無いが生体組織(人工皮膚など)が死んじまう。まぁ取り替えれば済むんだけど・・・変えたばっかりでこれじゃなぁ・・・
「優お姉ちゃんから直すよ」
俺の考えが解ったかどうかは不明だが、麗はさっさと優の手術に取りかかっている。
「生体組織の補修ツール用意しといて、輸血開始で華お姉ちゃんの方始めるから」
二人同時に直すのかい、とんでもねぇ精神力だ。
「様子見てくる」
ちょいと目を離したら二人やられちまって、俺は司令室に戻った。

 華は引き裂かれた様な傷が全身に走っていた。傷口が焼け焦げて凄まじい臭いを放っている・・・本人も相当な痛みなのだろう、気を失ってはいるが時折苦痛に喘いでいる。
「全く、とんでもねぇ怪物だぜ・・・」
壮が蒼白な顔の栄に話しかける。
「優さんがやられちゃってさ、雅ちゃんがいきり立って龍醒撃ったんだよ、んで華ちゃんも続けざまに虎吼を発動させたんだけど・・・お?どうした?」
無言のまま栄が立ち上がる。眼鏡の奥で怒りの炎が燃えさかっていた。うわぁ、こいつ怒らせるとヤバイって。
「壮君、後は頼みますよ」
「・・・出るのか?」
「ええ・・・麗さん、華さんをよろしく」
それだけ言うと栄は開発室を後にした。

 「・・・ったく、設定間違えたかなぁ・・・」
俺は開発室への廊下を歩いていた。モニタ上では残った三人が苦戦を強いられているのが一目で解った。秀の馬鹿力でも大して効果がない。
「あんな台本引き受けなきゃ良かった・・・ん?」
独り言をぶつぶつ言いながら開発室の前まで来たとき、中から栄が出てきた。
「無茶するなよ」
彼が出るのが解ったから一声かけて中に入ろうとしたが、
「感謝しますよ、団長」
静かに栄が言った。
「私に恋愛感情と怒り・・・人間らしさを与えて下さったことを」
この言葉には簡単だがはっきりとした意味が込められていた。
「・・・”裁き”は用意してある、使いたければ使え」
「有難うございます」
そういうと彼は足早に、だが走ることなく出ていった。
「ちょっと予定と違ったが・・・まぁいいか」
”結果”は同じだ。

 怪物の猛攻はまだ続いている。メキドフレイムで下半身を失ってはいたが、その攻撃に衰えは見えない。むしろ体が小さくなって小回りが利くようだ。
 典と雅、秀の三人は岩陰に隠れて休んでいた。
「はぁ、ひぃ・・・ふぅ、なんちゅう硬さだ・・・螺天(高エネルギーを乗せたアッパー)も轟飛(突進ニーキック)も鎧破(全体重を乗せた正拳)すらも効きゃしねぇ」
「単発の奥義も効果薄だしな」
「メキドフレイムが効かないなんての聞いたことないよ・・・」
敵のスタミナと強力すぎる防御力にいささか参っているようだった。
「おめぇ、腕大丈夫なのか?」
「大丈夫だったら使ってる」
「はぁ〜・・・せっかく新しい服買ったのに、台無し・・・」
アーマーの下に着ていた服は戦闘でぼろ同然になってしまった。
「最後の一つだったのになぁ・・・これ」
「キャラメルに作ってもらえばいいだろ?」
「その前に、こいつをどうにかしないとな・・・」
隠れていた場所を怪物に発見されてしまった。
「また逃げるの?」
「そ、逃げつつ作戦を練りましょ」
走り出そうとした三人に後ろから声がかかった。
「その必要はありませんよ」
栄だ。秀でさえ10分かかった距離を5分以下で走り抜けてきたのか。
「これは私が処分します」
顔を見合わせる秀と典。一人不安そうな雅。
「まぁ、俺等の手に負える奴じゃないしな・・・無理するなよ」
「え・・・?」
秀の言葉に雅が疑問的な声を発した。
「なんでしょう?」
「え・・・と・・だって、失礼だけど栄さんて、ボクより強いようには・・・」
ごにょごにょとつぶやく雅、確かにこいつは頭脳労働者っぽいがな。
「そうですね、私は弱いですよ・・・好きな人を傷つけられてこんなにも怒りを感じるなんて・・・弱い証拠です」
「はぁ・・・」
訳も解らずうなずく雅。その耳に典が囁く。
「実際こいつの強さは桁違いだ・・・いいかげんな団長のおかげでな」
「何です?典君」
「何でもねぇよ」
「んじゃ健闘を期待してっから」
まだ納得しない雅を抱えるようにして秀と典は半ば逃げるようにその場から離れた。
 三人が十分に距離を取ったのを確認して、栄が振り返った。
「さて、始めますか」
時が止まったかのように動かなかった怪物が再び動き出し、刃物のような爪を振り回してきた。怪物の攻撃範囲に入っても栄は微動だにしない、むしろ攻撃を待っているようだった。
ぎゅおっ!!
三つ又の凶爪が振り下ろされる。すっ・・・と栄が腕を上げた。
がっ!!
爪は止まった。栄の手でつかまれた怪物の足はびくともしなかった。
「これは典君の分としましょうか?」
栄が手に力を込めると、ぱんっ!と弾けるように爪が砕かれた。
怪物が凄まじい雄叫びを上げる、栄は音も立てずに怪物の下に潜り込み、腹に手を当てた。「優さんの分ですね・・・」
手のひらが青白く光る。
「・・・メキドフレイム」
ぶわっ!!と光の柱が天高く突き上げられた。アクセスコードなしでメキドフレイムを撃てるようにしちゃったのはまずかったかな、やっぱ。
 怪物は腹部を失い、狂ったように暴れ出した。栄はのたうち回る怪物を睨み付け、奥義の構えに入る。大気がうねり、辺りの空気が栄の両手に圧縮されていく。
「そしてこれが華さんの分だ!!」
ばっ、と両手を突き出す。
「真正義流奥義!!破邪!!!」

 どんっ・・・
空間全体を揺るがすような爆発が起こった。衝撃波が離れていた三人まで届き、髪を逆立てた。
「いつ見てもとんでもねぇな」
誰にともなしに秀がぼやいた。
「すご・・・全然敵わないや・・・」
ようやく雅も納得したようだ、唖然として爆発の跡を眺めている。
しかし典の表情は険しいままだった。
「・・・冗談も程があるぜ・・・破邪を耐えただと・・・」
「まじ?」
「生命反応は消えてねぇ・・・」
典に搭載されている生命体反応装置にはまだ怪物の反応が残っていた。
「故障じゃないの?」
雅が怪訝そうに典の顔をのぞき込む。
「いいえ、故障じゃありませんよ」
たっ、と三人の背後に栄が現れた。ジャケットの背中が切り裂かれている、爪にやられたのだろう。ジャケットを脱いで栄が言った。
「三人とも戻って下さい・・・出来れば、シールドを張っておいて下さると幸いです」
どうでもいいことだけど、栄のジャケットを脱いだ姿は黒いタンクトップです。
「”裁き”を使うのか?」
「ええ、それ以外に方法はなさそうですから・・・お願いします」
「解った」
またも訳の解らないといった顔の雅を引っ張って秀達は走り去った。

 栄は右手を前に出し、アクセスコードの詠唱を始めた。
「天の蒼穹に煌めくは無限の閃星、その輝きは不浄なる大地に裁きの雷を与えん」
”裁き”と呼ばれるこの兵器、実は栄に搭載されている武器ではないのです。
 手のひらの先に小さな光球が現れる。表面にはいくつもの文字が浮かび上がっては消えていく。
爆発の中から怪物が姿を現した。その双眼はまっすぐに栄を狙っている。今や四本になった足で突っ込んでくる。
怪物が足を振り上げ、栄めがけて振り下ろすのとほぼ同時にシールドが展開された。
「・・・(間に合った!)」

 栄のいた岩が薙ぎはらわれる。モニター上では栄の動きはつかめなかった。
「ど・・・どーなった?」
食い入るように見つめる秀。満足に動けるのはこいつと壮、雅だけだ。
カメラのピント調整で栄が怪物の胸に手を叩き付けたのが見えた。ああなればもうこっちのもんだな。

 「・・・全ては運命、何人たりとも逃れることは出来ない・・・」
びっしりと文字の浮かんだ光球を怪物に叩き込み、最後の言葉をつぶやく。後は十分に距離を取った上で発動させればそれでいい。
 栄は怪物が見失わない程度に距離を取って走り出した。少しでも被害を抑えるために広大な敷地の中央まで誘い出そうという考えだ。やがてほぼ中心に来ると再び破邪の用意をした。怪物がすぐそばまで迫る、一つ大きく息を吸い込むと両手をつきだした。
「ファイナル・ジャッジメント!!」
破邪の爆発で怪物の頭が浮き上がる。それを見た瞬間栄は出来るだけその場を離れた。

 「何?何が起こったの?」
雅が回りを見回すが誰も答えようとしない。ファイナル・ジャッジメントが成功するかはやってみなけりゃわかんねぇんだよ。
「来たっ!」
秀が窓から空を見上げて叫ぶ。どうやら成功したようだ、初めは数える程度の光だったが、その内に数え切れないまでの光が束となって押し寄せてきた。
 初めの一本が怪物の頭を貫いた。その後も無数の光の柱が怪物の体を易々と貫き、破壊し、焼き尽くす。そう、この技は宇宙空間にある各国の攻撃軌道衛星を無断で使わせてもらっちゃおうというルール違反的な技だったのだ!!
 やがて光の雨が収まると、怪物の体は微塵も残ってはいなかった。
「今回は全弾命中したようですね・・・」
栄の顔に安堵の表情が浮かぶ。

 麗による手術は無事に成功し、二人とも元気になった。
優はまだしばらく安静が必要だが華はすっかり大丈夫だ。明日にはいつも通りに動けるだろう。
「・・・しかしまぁ、栄が華ちゃん狙いだったとはな・・・わかんねぇもんだな」
優の枕元で秀がつぶやく。
「安心した?」
「何が?」
優が笑いかけるが秀は知らん顔だ。素直じゃないねぇ、こいつらは・・・もどかしいったらありゃしない。

 リビングでは典が雅に追いつめられている。
「右手が使えない今がちゃーんす」
舌なめずりしながらじりじりと迫る雅。獲物を狙う蛇みてぇ。
「ちょ、おい・・・寄るな・・・」
左手で牽制しながら後ずさる典、遂に壁際まで追いつめられてしまった。
「うふふふふ・・・もー逃げられないよぉ」
もはや雅の目は典しか見えてない。手をわきわきさせて飛びかかった。
「うわあっ!!」
思わず典が右手を振る。しかし勢い余って柱にぶつけてしまった。
「いっ・・・・てぇー!!!」
てぇー・・・てぇー・・・てぇー・・・
典の悲鳴が敷地内にこだまする。
そんな夕暮れ。

 少々の損害はあったが一応決着が付いたのでよしとしよう。
さーて、逃げるかぁ・・・

もう少し続きが。
気になる人は漫才9へGO!!