3回目。 〜前回までのお話し〜 団長の作った薬で突然17歳の身体になってしまったタルト。 その姿は、なんと世紀の大魔女レディ・ババロアにそっくりでした。 その大魔女の孫が館長を務めているという記念館へ話を聞きに向かっている訳です。 (タルト)「きれーだね、だんちょー」 レディ・ババロアの記念館がある公園は、楓や銀杏の木々が見事に色づいております。 (団長)「銀杏の実は踏むなよー」 どんぐりやらきれいな葉っぱを集める姿は、やっぱりお子様です。 (タ)「いっぱいとれたよ」 (団長)「何するのかな?」 (タ)「えっとねー、・・・あ、やっぱりひみつー☆」 (団長)「ちょっとだけ」 (タ)「だめー♪」 ・・・そんなやりとりをしている内に、記念館へたどり着きました。 ちょっとした公民館程のこぢんまりとした建物です。 用件を館長に伝えてもらう間に見学コースを回る二人。 (タ)「あれー、たるとのえがあるよ?」 館内の肖像画を指さすタルト。 勿論、描かれているのはレディ・ババロア本人ですが。 (団長)「よく見てごらん、お耳が違うよ」 (タ)「あー、ほんとだー」 しかし薄桃の髪といい、紫の瞳といい、見れば見るほどそっくりです。 どう考えても他人とは思えません。 (団長)(血縁と考えて間違いないか・・・) と、職員がやって来ました。どうやら館長に会えるようです。 通された部屋には先程とはまた違った肖像画が飾られていました。 調度品も曰くありそうな物ばかり揃っております。 (タ)「なんだかふしぎなきもち・・・」 (団長)「・・・どんな?」 (タ)「このへんがふわふわするの」 神妙な顔つきで胸の辺りを抑える。 (団長)「大丈夫だよ・・・座ってなさい」 (タ)「うん・・・」 珍しく落ち着かないタルトをなだめてソファへ座らせる団長。 不意にドアをノックする音が。 (館長)「お待たせしました」 言い、部屋に入ってきたのは初老の紳士です。 人の良さそうな顔がタルトの顔を見るなり固まってしまいました。 (団長)「どうも、突然の不作法をご容赦願います」 (館長)「あ、あぁ、これはこれは・・・館長のムースでございます」 居ずまいを正して一礼する団長に気付き、慌てて挨拶をするムース館長。 その視線はタルトに釘付けです。 (ムース)「いやはや・・・本当に祖母の若い頃にそっくりな娘さんで」 (タ)「おみみはちがうんだよ」 (ム)「おや、そう言えばそうですな・・・いや、その耳・・・」 (団長)「何か御存知ですか? キメラオークションの会場に棄てられていたこの子を保護したのですが」 突如顔色の変わった館長。 ぶつぶつと独り言を言い、どこかここでは無い場所を見つめているかのような目です。 (タ)「じーちゃん、どーしたの?」 (団長)「・・・さぁ?」 肩をすくめて顔を見合わせる二人。 (ム)「・・・まさか・・・そんな筈は」 (団長)「よろしければお話ししてもらえませんか?」 (タ)「?」 (ム)「いや、よしましょう・・・過ぎた話です」 そう言われると知りたくなるのが人間の性、ちょいと鎌をかけてみました。 (団長)「確か、息子さんの奥さんが準キメラでしたよね?」 (ム)「よく御存知で・・・あぁ、査察員でしたね」 見事に引っかかりました。 (ム)「あの忌まわしい事故から三年・・・その時1つだった孫がもし生きていてもまだ4つ・・・ 寂しい事ですが、老人の戯言と忘れてください」 (タ)「たるともよっつだよ? ねぇ、だんちょー」 にこにこしながら団長を見上げる。 (ム)「え? それは・・・」 (団長)「いや、ちょっとした事故でこんな身体になってますが・・・」 (ム)「では・・・」 苦笑いの団長。 館長が再びまじまじとタルトを見つめる。 (ム)「・・・そうですか」 今から三年前・・・ 館長の息子夫婦と幼い孫が乗った航空機が着陸直前で墜落炎上。 懸命な救助活動にも拘わらず死者数百名を出す大惨事に。 息子夫婦も運悪く焼死、しかし幼い孫の遺体だけはどこを探しても遂に発見されなかった。 生存者の中に居るわけもなく、行方は謎のまま現在に至っている・・・ (団長)「確証はありません・・・ただ、この子の魔力がレディ・ババロアに匹敵するものである、とだけは言っておきましょう」 (ム)「・・・・・・・・・・・・」 (団長)「貴方次第です、館長」 急に黙ってしまった二人を交互に見上げて不思議そうな顔をするタルト。 やがて、しばらく考え込んでいた館長が口を開いた。 (ム)「お嬢ちゃん、お名前は?」 (タ)「たるとです」 (ム)「そうかい・・・」 それ以上は何も言わない館長。 タルトを見つめる慈しみの眼差しは、まさに孫に向けられたそれでしたが。 昼下がりの暖かな日差しが公園の木々を照らして輝いています。 遠くで鳩にエサをやっているタルトを眺めて団長と館長が話しています。 (団長)「本当によろしいんですか?」 (ム)「えぇ、あの子があの時見つからなかったのなら・・・それに、今更辛い思いをさせたくありませんから」 館長の横顔は不思議と晴れ晴れしています。 袋の中のエサを全部やり尽くしてタルトが戻ってきました。 (タ)「だんちょー、たるともおなかすいたー」 (団長)「ご一緒しませんか?」 (ム)「そうしたいのは山々ですが・・・何かと忙しいので」 (団長)「そうですか・・・タルト、ごあいさつ」 (タ)「さようなら」 ぺこりとお辞儀。 (ム)「さよなら・・・幸せにな、タルト」 (タ)「うん」 (団長)「では・・・失礼します」 記念館の入り口に立ち、館長は遠ざかる二人を見えなくなるまで見つめていました。 続く。
(タ)「じーちゃん、またねー」
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