俺的小説第一弾!「ロックマンX4」:完結編

十三章 ファイナルウェポン


 漆黒の宇宙、全てを飲み込む闇の中にそれはあった。
闇夜に咲く大輪の花のように鮮やかな色彩で佇んでいる。光と闇のコントラストがくっきりとモニタに映し出された。ファイナルウェポン―文字通り最終手段に用いられる兵器だ。その花弁が開かれた時、地上は一瞬で廃墟となる。

 ゼロを乗せたシャトルはカタパルトヘのハッチを突き破り、内部へと侵入した。地上からシャトルがあれだけ打ち上げられた筈だが、カタパルト内にはほんの数機しかなかった。
「妙だ・・・静かすぎる」
無論、これだけの設備である以上、機械音の凄まじさは言うまでもない。そういった賑やかさではなく、生命の音が全く聞こえない、まるで墓場だ。
「とにかく、早いとこコイツの動力を落とさないとな」
ゼロは剣を抜き放ち、自分に言い聞かせて歩き出した。

同じ頃、反対側のカタパルトから内部へ入り込んだエックスもゼロと同じように感じていた。途中目にした動くものと言えばギガテスやビームキャノン等のセキュリティシステムくらいなもので、レプリロイドにはまったく遭遇していない。
 不審に思いながら奥まで行くと、一つの部屋にたどり着いた。
「ここにいるのか・・・?」
少しばかりの気配を感じ、安堵と同時に緊張が走る。ここは敵陣なのだ。

 部屋の中はそれほど広くはない、本部の訓練場と同じくらいの広さだった。その中央で一人のレプリロイドがこちらを見ていた。
「お前・・・ダブル?!」
黄色いアーマーのレプリロイドは紛れもない、地上で待っているはずダブルだった。ただ、少し雰囲気が違う。いつもの陽気さは微塵も感じられず、代わりに恐ろしい殺気が部屋を満たしていた。
「ハハハ・・・イレギュラーハンターもレプリフォースもアマちゃん揃いだな」
混乱するエックスをダブルは冷酷に笑い飛ばした。
「ま・・・お陰でやりやすかったがね」
ちょうどクジャッカーがそうだったように、相手はダブルの姿をしてはいたが声は全くの別物だった。
「何を言っている? どう言うことだ! さっきの無線で・・・まさか!」
今考えればシャトルで受けた自分を呼ぶ通信はかなり緊迫した声だった。直後、ダブルが応対したのであまり深刻なことではないと思い、切断したのだが。
もし、部隊が何者かの襲撃を受け、危機に瀕していたとしたら・・・もし、部隊を襲撃したのがダブルだったとしたら・・・エックスの中でパズルが完成したと同時にダブルの姿が変わった。先程までの非戦闘形態から急変し、闘いのために創られたおぞましい姿だ。
「あの世でゆっくり考えな・・・死ね!エックス!!」
ダブルの腕から血のように赤い、ビームの刃が伸びた。ゼロが倉庫の傷跡を見た、17部隊を切り裂いた刃だ。
「俺は・・・俺は・・・信じていたのに!!」
イレギュラーへの激しい怒りがエックスの何かを変えた。バスターが紅く輝き、4発のチャージショットが一点に収束する・・・
「くそぉぉっっ!!!!」
防御を考えずに放った最大級のエネルギー弾は、刃を突き出して突進してきたダブルを吹き飛ばしてもなお、その場にエネルギーを残留させるほどだった。
「な・・・んだと・・・?」
腕や脚の液体金属で構成されていた部分が吹き飛び、無惨な姿で壁に叩き付けられたダブル。悔しそうに呻き、エックスを睨む。
「何故・・・裏切った・・・?」
ドラグーンの事が頭に浮かび、声を詰まらせるエックス。どんな作用か、バスターは変形したままの姿を保っていた。
「裏切る・・・? 裏切るも何も始めからスパイとして潜り込んでいたのさ・・・」
発せられた声には覚えがあった。クジャッカーを操り、サイバースペースを滅茶苦茶にした謎の存在・・・エックスは反射的にバスターを構えた。
「新米ハンターを使った作戦は上出来だった・・・全てはあの方の思惑通り、お前はここで無様に死ぬ運命なのさ・・・・・・私と一緒にね!!」
言い、ダブルの姿をしたイレギュラーが掴みかかってきた。自爆する気だ。エックスは咄嗟に回避しようとしたがほんの少しタイミングが遅れた。狂気じみた表情でイレギュラーの手がエックスの肩をつかもうとしたその時、
「ぐぁっ!! ・・・おの・・・れ・・・・・・」
苦しそうに洩らし、動かなくなった。そしてあの禍々しい姿が元の丸々としたボディに戻る。
「ダブル!!」
思わずダブルを抱き起こすエックス。すまなそうに自分を見る瞳は、あどけないくらいに澄んだ、少年のそれだった。
「・・・先輩、俺・・・ずっと・・・憧れて・・・」
自分の知っているダブルの声じゃない、彼の本当の声なのだろう。元は明朗だったであろう声も、今は消え入りそうに弱々しい。
「迷惑かけて・・・済み・・・ma・・・s・・・・・・e・・・n・・・」
最後は言葉になっていなかった。かろうじて聞こえた音を理解すると、エックスの頬を一筋の光がこぼれた。
「ダブル・・・愚かな俺を許してくれ・・・・・・!!」

 冷たくなった部下の身体を静かに横たえ、エックスは一人奥の扉をくぐった。

十四章 愛と愛


 そこは奇妙な空間だった。有機的な壁面が微かに発光して薄暗い部屋の中で一層不気味に浮かび上がっている。照明は無く、カメラアイを赤外線モードにしても十分とは言えない。ビームサーベルの放つ光を頼りにゼロは慎重に歩を進めていた。
 と、暗黒の彼方に僅かだが灯りが見えた。はやる気持ちを抑え、更に慎重な足取りで近付くゼロ。
「―――――!!」
ようやく通常のモードでも確認できる距離まで近付いたゼロの目に入ってきたのは信じ難い光景だった。
 ・・・何故・・・ここにいる・・・?
ゼロの目の前が真っ白になる。あり得ることがない、彼女はハンター本部に半ば軟禁状態で居るはずだった。
 ・・・アイリス・・・
厳重な警備を敷いている本部を抜け出してきたのか、彼女のトレードマークとも言えるベレー帽をかぶっていなかった。虚ろな瞳で輝く物体を抱きかかえ、それに小さな声で何事か語りかけている。まるでぬいぐるみ遊びをする子供のようだ。全くこちらに気付いていない。
「・・・どうして何も喋ってくれないの?・・・どうしてあの人と闘ったの?・・・酷いよ・・・お兄ちゃん・・・」
ゼロの背筋に冷たい物が走り、読唇を使ったことを深く後悔した・・・アイリスが抱えている物は、鼓動のように明滅するカーネルの動力炉だった。
「・・・どうして・・・死んじゃったの?・・・・・・殺されたの?・・・だれに・・・?」
目を逸らそうとしても身体が動かない。戦士として鍛え抜かれた感覚は、読唇など使わずとも空気の流れだけで何を言っているか解ってしまう。
「・・・ゼロが、ころしたの?・・・にいさんを・・・ぜろが・・・いや・・・いや・・・」
かっ、と目を見開いて首を振るアイリス。みるみる青ざめていく彼女を見て思わずゼロが叫んだ。
「アイリス! しっかりしろ!!」
びくっ、と肩をすくませ、顔を上げるアイリス。驚愕してゼロを見つめる瞳に憎しみの炎が灯るのが解った。
「ゼロ・・・よくも・・・よくも兄さんを・・・!」
ゆっくりと立ち上がり、震える拳を振り上げる。
「確かに俺がカーネルを斬った・・・だが彼奴は満足していた筈だ!」言い、何かに気付いたゼロ。「・・・・・・お前には解らないかも知れないが」
 結局、カーネルの最期の言葉も、自分に都合のいいように解釈していただけではないのか?武人の誇り?そんなもので済ませるほど残された者の想いは安い物じゃないことは痛いほど解っていたはずなのに。
 振り上げた拳を力無く下ろし、冷めた笑いを浮かべるアイリス。
「・・・もう、終わってしまったのね・・・何も、かも・・・」
凄まじいまでの負のエネルギーがアイリスを包み込む。それがカーネルの動力炉と反応して膨大な力を生み出していく。
「待て! 早まるなアイリス!!」
アイリスを止めようにも圧倒的な力の壁に阻まれ一歩も近づけない。そうしている内にもエネルギーは上昇し、このままでは彼女自身も危ない状態に陥っていた。
「ごめんなさい、ゼロ・・・」
精気の抜けた表情で嗤うアイリス。カーネルの動力炉を掲げ、蓄積されたエネルギーを解き放って大爆発を引き起こした。
「・・・アイ・リ・・・・・・ス・・・!」
激しいエネルギーの奔流に、ゼロの身体は軽々と中を舞った。

 「う・・・」
気が付くと、部屋の壁は所々崩れ落ちて外の光が漏れていた。瓦礫に埋もれた身体を起こし、爆心へ向かうゼロ。あれだけの爆発だ、アイリスのパーツ一つでも残っていれば幸いだと思ってのことだが。
「アイリス・・・!」
しかし彼女のボディは残っていた。それも、ほとんど完全な状態で。ゼロは走り出した。「アイリス、無事なのか? しっかりしろ!」
奇跡だった。彼女のボディが残っているだけでなく、まだ微かに息があったのだ。うっすらとアイリスの目が開く。
「ゼ・・・ロ・・・」哀しそうな瞳で自分を見つめるアイリス。「もう、レプリフォースに手を出すのはやめて・・・一緒に、レプリロイドだけの世界で暮らしましょう」
 いくらボディが残っていてももはや限界のようだ。苦しそうに訴える。
「そんな物は幻だ・・・共存しなければ道はない」
「・・・そうよね・・・でも、信じたかった・・・レプリロイドだけの世界で、あなたと・・・」
何故形だけでも彼女を安心させてやれないのか・・・ゆっくり差し出されたアイリスの手を両手でつかみ、夢中で叫んでいた。
「パスコードのメッセージ、確かに受け取った・・・だから死ぬな!アイリス!!」
一瞬びっくりしたような表情になり、それから嬉しそうに微笑む。そのままの姿で彼女の腕から力が抜ける。
「アイリス? ・・・アイリス!!」
いくら叫んでも、静かに閉じられた瞳がゼロを見つめる事は二度と無かった。
「―――――ッ!!」
悲しみなど感じたことなど無い彼が、今はただ・・・

 永遠とも思える静寂の中、もの言わぬ少女にそっとくちづけをして、ゼロはそこから立ち去った。
「俺はもう・・・誰も愛さない・・・」

十五章 赤いイレギュラー


 ずん・・・大きな揺れが立て続けに数回、ファイナルウェポン全体を襲った。
内部からは何が起こっているかは解らなかったが、外から見たなら、ちょうど花のつぼみが開くようにその巨大な砲身が地上へ向けて定められた。ファイナルウェポンの起動である。

 ジェネラルは巨大な部屋の奥で瞑想に耽っていた。
先程現れた赤いレプリロイドとの戦闘中、無人の筈の兵器が勝手に動き出したのである。
 彼はそれを聞くと、闘いを放棄して中枢へと向かっていった。
 ・・・ゼロ、か・・・
揺れが激しくなり、ジェネラルが目を開けると一人の青年が歩み寄ってくるのが解った。
「ジェネラル! その傷は一体!?」
ジェネラルから見ればほんの小さな体格に過ぎない彼が、今のジェネラルにはとても頼もしく見えた。
「エックスか・・・私には構わず急いで中枢へ向かってくれ、地球が、危ない」
静かだが重みのある声だ。あまり深いダメージでは無いようなので、心配しながらも彼の声にしたがうエックス。何よりもこの兵器を止めることが最優先なのだ。
「・・・」
ジェネラルは走り去るエックスの後ろ姿を複雑な面持ちで見送ると、再び双眸を閉じた。

 長い通路をゼロが駆け抜ける。巧みにコピーされたレプリロイドが彼の前に立ちふさがるも、一刀のもとに斬り捨てられ、あるいは一瞬でバラバラにされる。もはや何者にも彼の進撃を止めることなど出来ない。
 中枢の前で黒いローブを纏った男が待っていた。ジェネラルの屋敷で追い出されたあの男だ。
「フハハハ・・・素晴らしいな、ゼロよ」
巨大な鎌を携え、宙に浮く姿は昔話に描かれる死神そのものだ。
「やはり貴様か・・・シグマ」
感情のない声でゼロがつぶやく。シグマはそんなゼロを面白そうに眺め、言った。
「カーネルを斬り、アイリスまでも死なせたか・・・気分はどうだね?」
何も喋らずにシグマを睨み付けるゼロ。
「フッ・・・私の仕業だと言いたそうな顔だな・・・・・・それは違うぞ、お前の心が破壊を望んでいるのだ」
「何?」
ゼロの顔に僅かだが戸惑いが現れた。その微妙な変化を見逃さずにシグマが語りだす。
「教えてやろう、あれはまだ私がイレギュラーハンターの隊長だった頃だ・・・」

 その日、私はかねてよりイレギュラーの被害が報告されている工場跡へ来ていた。
17部隊の前に来ていた部隊が全滅するほどの相手だそうだ、流石の精鋭達も一人、また一人と減っていってな・・・私自らが出撃したのだ。
 一つの部隊を壊滅させるほどの相手とは言え、かなり苦戦を強いられたが最強と呼ばれた私に敵う相手ではない・・・そいつは報告書にあったとおりの赤いレプリロイドだった。血のように赤いアーマーのな。もう解っただろう、お前だよ、ゼロ・・・

「そう、お前こそがイレギュラーだったのだよ」
シグマの話を黙って聞いていたゼロだが、話が終わると軽く笑い飛ばした。
「はっ、俺がそんなハナシで驚くとでも思ったか? 俺は貴様を倒し、この兵器を止める」
シグマは満足そうに笑い、中枢の中へ消えていった。
「そうでなければ面白くない・・・やってみるがいいさ」
ゼロは扉を切り裂き、中枢へと入った。

 中枢はおどろおどろしい作りに変えられていた。いや、今までの内装からしてこれが正しいのかもしれない。悪魔をかたどった壁面にはたいまつが灯されており、それが唯一の光源だった。オレンジ色の光の中に二つの影が浮かび上がる。
「地獄へ旅立つ準備は出来たかね?」
「そのセリフ、そっくり返すぜ」

 シグマの一撃は凄まじい破壊力だ。が、如何せん振りが大きく、まるで隙だらけである。熟練したゼロの敵ではなかった。黒いローブが龍炎刃の焔に包まれる。
「今のはほんの小手調べだ!」
ローブを脱ぎ捨て、床に降り立つシグマ。発せられる殺気は今までの比ではない。
「俺もなめられたもんだな」
 ビームサーベルとビームサイズの刃がスパークし、火花を放つ。格闘術はほとんど互角の腕だ。小さな傷は無数に出来るが決め手に欠ける。焦った方の負けだ。
「ちっ!」
ゼロが一度間合いを取る。攻撃範囲が特殊な武器を使うシグマの懐に飛び込んでしまえば勝ったも同然なのだが・・・と、シグマがビームサイズを飛ばしてきた。回転する巨大な鎌を天空覇で叩き落とす。ビームの刃が床に食い込み、シグマが丸腰になる。
「もらったぁ!!」
絶好機を逃すはずもなく、疾風牙で一気に勝負に出るゼロ。しかしシグマは微動だにせず、不敵な笑みを浮かべるだけだ。背後から迫る危機に気付いたとき、ゼロはその場に倒れ込んでしまった・・・
「く・・・くそ・・・」
身体がしびれ、全く動かない。全てはシグマの作戦だったのだ。ビームサイズから放たれた電撃が神経を麻痺させてゼロの意識を朦朧とさせる。
「あと少しだったな・・・残念だよ」
シグマが腕をかざすと、巨大な鎌は見えない糸で繋がれているかのようにシグマの腕に戻ってきた。倒れ込むゼロにゆっくりと近付き、鎌を振り上げるシグマ。
「終わりだ」
・・・ばしっ!!!

 振り下ろされたシグマの腕はビームのネットに絡み取られ、宙に固定されていた。鎌の刃は、ゼロの背中の装甲を薄く削っただけで止まっている。
「ぬぅ・・・またしても貴様が邪魔をするか・・・」
憎々しげに中枢入り口を睨むシグマ。肩で息をするエックスがバスターを構えて立っていた。間一髪放ったライトニング・ウェブがすんでの所で友の危機を救ったのだ。
「もう、誰も死なせない・・・シグマ!貴様を倒す!!」
エックスの叫びと同時にライトニング・ウェブのビームが大きく広がり、シグマのボディを包み込む。
「何ィ?!!」
動きを止められたシグマをエックスバスターが捕らえた。プラズマチャージショットがシグマのボディを吹き飛ばし、球状のエネルギーを残留させる。壁に張り巡らされたエネルギー管を破壊したのか、シグマのボディごと部屋の片隅を爆発に巻き込んだ。
 エックスは咄嗟にゼロを抱え、中枢を離れた。

十六章 闘いの果てに


 傷ついたゼロを先に脱出させ、エックスは再び中枢近くへ来ていた。ファイナルウェポンを完全に停止させるためだ。ジェネラルの事も気にかかるが、今はまず動き出したこの巨大兵器を沈黙さねばならない。
 軽いデジャヴがエックスを急かす。空中都市・スカイラグーンでの出来事が意識せずとも思い出されていたのか。

 「・・・?」
エックスの足が止まる。来た道をそのまま引き返してきた筈だが、たどり着いたところは見覚えのない空間だった。質素な造りの部屋に端末が並んでいる。
 道を間違えたのかと振り返ろうとしたその時、突然床が崩れて下のフロアに落とされてしまった。
「核・・・か?」
猫のようなしなやかさで降り立つと、ただっ広い空間の奥に動力炉らしきものが見て取れる。何処かに制御装置がないかと部屋を調べるエックス。片隅でそれらしい物を発見し、解析にかかる。
「くそっ」
しかし、電気系統の故障か一切の操作を受けつけない。仕方無しに、別の手段を探しに奥の扉へ向かうエックスの視界が急に遮られる。何事かと見上げれば、そこに顔があった。
 「シグマ・・・!!」
先程の優に3倍はあろうかという巨体。それは恐るべきパワーを身につけたシグマの真の姿であった。
「フハハハハ・・・エックスよ、貴様とてこのパワーには敵うまい!」
凍てつく冷気が襲いかかる。エックスは避ける間もなく白く凍り付いてしまった。シグマがその巨体に合わせて作られたビーム砲でエックスを狙う。
「宇宙のチリとなるがいい!!」

 ビッ・・・!!!
シグマの放った光線は確実にエックスの身体を貫いていた。

 薄れゆく意識の中で誰かがエックスに語りかけてきた。
『・・・ックス、よく聞きなさい・・・私はもう長くない・・・お前が動き出す前に天に召されるだろう・・・・・・』
ひどく懐かしい人だが、輪郭がかすんで思い出せない。ただ、かなりの高齢だと言うことだけは察することが出来た。
『お前には力がある・・・それが正義に使われることを私は切に願っておるよ・・・』
優しい口調で語りかけてくる老人。それが過去の記憶なのかエックスには解らなかったが。
「Dr.ライト・・・」
エックスの意志とは関係なく口が開いた。動かなくなった筈の腕が持ち上がり、虚空をつかむ。

勝利を確信したシグマが驚愕の表情を浮かべた。
「死に損ないめ!!」
無数の電撃が容赦なくエックスに降り注ぐも、そのことごとくが僅かに外れて周りの床を砕いた。
「ぐぬぅ・・・ならばもう一度!!」
再びビーム砲で狙いを定めるシグマ。放たれた光線がエックスに届くよりも一瞬早く、エックスが飛び上がる。
『・・・そう、そしてお前が心より「誰か」のために力を望んだとき、究極の力が目覚める・・・』
光に包まれ、エックスの傷が再生する。
「俺は・・・散っていった命のためにも、これから生まれる命のためにも・・・負けるわけにはいかないんだ!!」
眩い光を纏い、渾身の一撃を愕然としたシグマのボディに叩き付ける。
「ノヴァ・ストライク!!!」





 全ての力を出し切り、よろめきながらも動力の核へと急ぐエックス。
もはやファイナルウェポンの発動か破壊しか道は残されていない。その中でも核を直に攻撃し、爆破することだけがエックスに残された選択肢だ。
 だが・・・
「フ・・・ハハハ・・・もぅ、遅い・・・既にこの兵器を止める手段など無いのだ!!」
柄の折れたビームサイズを手に、片腕が無くなり、片足の機能していない満身創痍のシグマが立ちはだかった。
「どけ、シグマ・・・」
バスターを構えて牽制するが、正直なところチャージショット一発が限界だろう。度重なる戦闘でエックスのエネルギーも尽きかけていた。
 がしっ!!
不意に何者かがシグマを掴み上げる。巨大化したシグマにも匹敵するその腕はジェネラルのものだった。
「・・・私のボディを使えばこの兵器を止められる・・・」
覚悟を決めた様子で語るジェネラル。
「バカな・・・! 貴様正気か?!!」
物凄い力で締め付けられたままシグマが喚く。
「しかし・・・それじゃ貴方が!」
エックスも突然の発言に動揺を隠せない。
「・・・部下をあれだけ死なせて生き残るわけにもいくまい・・・共に墜ちようぞ、シグマ・・・」
「一つだけ教えてくれ! 宇宙へ飛んだ他のレプリフォースはどうした?」
エックスの問いに薄く笑って答えるジェネラル。
「彼等は別の宇宙ステーションに待避している・・・イレギュラー認定が消えるまでな」
「!!!・・・それじゃ」
「さぁ行け、エックス・・・地上で待っている者が居るはずだ」

 エックスがためらいがちにカタパルトへ向かうのを確認すると、手の内のシグマに語りかけた。
「所詮、運命には逆らえぬのだな、シグマ」
シグマはもう騒いでおらず、力無くうなだれている。
「私は自分が間違っているとは思っておらぬ・・・明確な敵が居る内は彼等が闘うことは無いだろうからな」
「しかし犠牲が大きいのも事実だ・・・真実はどうあれ、彼等の心は・・・・・・」
「・・・・・・・・・まだ、諦めんよ」
どこか遠くを見つめるシグマ。その面影はかつての17部隊隊長の頃のままであった。
 激しくなる爆発の中、二人の影は炎の中に消えていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

終章


 数ヶ月後、街はようやく活気を取り戻し始めていた。イレギュラーハンター本部では一連の事件の責任を取り、総督が辞意を表明するなど慌ただしいこともあったが、かなり落ち着いた様子に戻っていた。
 「あ、エックスさん! 隊長見かけませんでしたか?」
ホーネックがエックスの姿を見つけて飛んできた。ようやくボディの再構築が終わり、実空間に戻ってこられたのだ。
「さぁ? 俺は知らないぞ」
エックスも修復を終え、つい最近任務に復帰したばかりだ。例に漏れず、役目を終えたパーツが再び力を発揮することは無かったが。
「ったく・・・俺がいない間の書類、かなり溜め込んであったんですよ・・・ちょっと言ってやんなきゃなんないのに・・・」
ぶつぶつと文句を言いながら飛び去っていくホーネックを眺め、やはりゼロにはホーネックが必要だな、と妙に納得するエックスだった。

 小さな部屋のベッドにゼロが仰向けになっている。すっきりと片づいた部屋で、窓から差し込む日差しが暖かい。
「やっぱりここに居たんだ・・・ホーネックが探してたぜ」
開け放たれたドアを叩き、エックスが入ってきた。
「ほっとけ、どーせロクでもない用事言いつける気だろ」
ゼロはつまらなそうに言ってベッドの上に起きあがり、日よけ代わりに顔に乗せていたベレー帽をテーブルに投げた。
「これ、君が持ってきたのか?」
テーブルの花瓶に生けられた花を見つけ、物珍しそうにエックスが聞く。
「・・・アイリスだ」
ぶっきらぼうにつぶやくゼロ。花の種類だ。
 少しの沈黙の後、ベットから降りて花を丁寧に包んだ。
「暇なら少し付き合え」
エックスは無言で後に従った。

 小一時間歩くと、メモリアルホールに併設された軍人墓地にたどり着いた。
真新しい墓標がいくつも並べられている。そのうちの一つに、生前の格が違うのだろうか、他とは少し異なる形の墓標があった。
 ゼロが持ってきた帽子を花束と共に墓前に供える。
「・・・許してくれとは言えないな、カーネル」
なるほど、確かに墓標にカーネルの名前が見受けられた。
 時間がゆっくりと辺りを包み込んだ。

 「軍人は幸せだな・・・こうして生きた証が残される」
スパイダスの墓の前でゼロが言った。
「ハンターは書類の記入だけで終わりか・・・辛いな、エックス」
「あぁ・・・」
ドラグーンが、ダブルが、エックスの脳裏に浮かんでは消える。
「なぁ、ゼロ・・・」おもむろにエックス。「もし、俺がイレギュラー化したら、どうする?」
「バカなことを・・・もう帰るぞ」
一瞬肩をぴくっとさせたが、ゼロは何事もなかったように立ち上がると、すたすたと歩き出した。
「待ってくれ! 真剣に聞きたいんだ・・・」走り、ゼロの前に出る。「もし、俺がイレギュラー化したら・・・君が処理してくれ」
しばらくエックスを見つめていたゼロだが、小さく笑うと再び歩き出した。
「・・・約束だよ、ゼロ・・・」
穏やかな空の下、運命はただ静かに動き出していた・・・

ロックマン X4
END






・・・あとがき・・・

 二年間・・・思い返せば色々なことがありました。
高校は卒業するわ、ホームページは開設するわ、果ては運転免許なんてモノまで修得して・・・
などと感慨に耽っている場合ではありません。
 お待たせしました、ようやく完結です。
ROCKMAN X4発売から3年、しかも一ヶ月後には5が出るぜこのやろう!!
しっかし、本家ロックマンは音沙汰無し。64でDASHが出るし、アドバンスじゃEXEも。
サイバーミッションだって出たのに・・・
まぁ、マヴカプに出てるからそんなに見てない訳じゃないんですが。

 なんてなわけでX4です。
初めて買ったPSソフトなんですね、考えると。
アルティメットアーマーの凶悪さに笑い、黒ゼロの無意味さに感動すら覚えたあの頃・・・
はぁ、懐かしい。
 昨日久しぶりにプレイしたらストックチャージの使えること使えること。
向かうところ敵なし。アルティメットアーマーでもバスターチェンジが出来れば最高だったのに。
・・・なんて言っておいてゼロでシグマにやられちゃったんだけどさ。
ライフ満タンでもサブタンクが使えるんだもん!!ムダに一個消費しちゃって。

とりあえず文の方は煩雑ですが。
前編の最初の方と比べるとかなり作風に違いが出てるかも知れません、二年ですし(笑)
まぁ、感想とかいただけたら幸いです。

2000/10/30(月)
折口 亮