裏DASH ・・・ついに来たのね・・・この日が・・・・・ 狭い浴槽の中に口の辺りまでつかりながら少女はそんなことを考えていた。 呼吸の度に湯気が舞い、表情まではつかめないがその目にはただならぬ気配が漂っていた。 ・・・そう、今日こそ、ね・・・・・ なみなみと張られた湯の中に浮かぶ金髪が妖しく踊った。 その夜、バレル・キャスケットはディグアウター協会の集会にゲストとして呼び出されており、朝まで帰らない予定だった。 「じゃあ、行って来るからな、留守を頼むぞい」 「うん、気をつけてねおじいちゃん」 「博士、カバン忘れてますって」 「おう、こりゃうっかりしとったわい」 バレルを見送ると二人はフラッター号内に戻った。 「ロック、先におフロ入っちゃって。ご飯、もう少しかかるから」 「え?うん、解った」 ロールがキッチンへ入った後、ロックは何故か奇妙な違和感を覚えた。 「何だろう・・・?」 首を傾げながら彼はバスルームへ向かった。 「はぁ・・・そういやデータのやつ、どこ行ったんだろ」 浴室の天井を眺め、ロックがつぶやいた。今日はどういう訳かデータの姿を見ていない。バレルが連れて行った様子もなく、部屋にもいなかった。 「まぁいいや・・・ご飯、出来たかな?」 漂う匂いに期待して、ロックは風呂からあがった。 食卓にはいつもより豪華な料理が並んでいた。だが、何故か二人分しか無い。不思議に思いながらも席に着くと、奥からロールが出てきた。 「二人きりだから奮発しちゃった」 「え・・・?じゃ、データは?」 ロックはさっきの疑問を問いかけた。 「おじいちゃんについていったよ」 「ふ・・・ん」 何処かよそよそしい態度のロールのことも気になったが、何より彼女の放った『二人きり』という言葉に異常に反応している自分がいることに気がついた。 ・・・何考えてるんだ、僕は・・・ 鼻息と共に頭に浮かんだ妙な考えを棄て、前を見ると自分を見つめている瞳と視線が交わった。 「な・・・何?」 端から見ればかなり焦っているのが解るだろう反応でロックが口を開いた。 「食べないの?」 だがロールは何事も無かったかのようだ。 「あ・・いや、いただきます」 しどろもどろになりながら料理を口に運んだ。ロックの反応を確かめるようにロールがそれを見ている。 「ん・・・旨い。美味しいよ、ロールちゃん」 お世辞ではなく、本当に美味だった。ロックがどぎまぎしていたからだけかもしれないが。 「良かった〜、頑張ったかいがあったわ」 それからは何事もなく夕食が進んだ。ロックは始終意味もなく緊張していたが。 どきどきの夕食も済み、ロックはベッドの上に横たわって自室でディグアウト関連の雑誌を読んでいた。バレルの出かけた集会の記事なども書かれている。 「やっぱり凄いな、博士は」 バレルのプロフィールを眺めながらつぶやいた。数ヶ月ほど前に死の淵を彷徨う程の戦闘を繰り広げた自分とはまた違った意味での驚きと羨望が込められている。 ふと時計を見ると、両の針が真上になろうかとする頃だった。 「もうこんな時間か・・・そろそろ寝よう・・・」 雑誌をマガジンラックに放り込み、ベッドへ入ろうとしたとき、ある事に気が付いた。 ・・・眠くない・・・ あれだけいろんな事が起こればすぐに眠くなりそうなものだが、どういう訳かちっとも眠くない、逆に、いつもより元気な位だ。 「何でだろう・・・?」 そのうち眠くなるだろうと、ベッドに潜り込んだがいっこうに眠くならない。幾度と無く寝返りを繰り返し、どれ位経った頃だろうか、ふと、ためらいがちに戸を叩く音がした。 「?・・・ロールちゃん?」 ノックの主は一人しかいない。フラッター号には二人しかいないのだから。 部屋の戸を開けるとやはりロールが立っていた。彼女はロックの顔を見て薄く笑った。 「ど・・どうしたの?こんな夜中に」 おそるおそる問いかけても彼女は黙ったままだ。 「ま・・まぁ、とにかく入ってよ」 沈黙に耐えかねたロックは戸を開き、ロールを中に招き入れた。部屋の明かりを点けようとスイッチに手を伸ばしたとき、ロールがそれを遮った。 「このままでいいから・・・」 薄明かりの元でよくよく見れば、彼女が着ているのはごくごく薄手のネグリジェだった。 「そ・・・そう?」 ささやくような声の中に言い様のない気配を感じ、ロックはたじろいだ。 ロールがベッドの上に座ったのでロックは彼女が見えない位置に腰掛けた。暗がりとはいえ、とても理性が働くような格好ではなかったから。 しばらくの沈黙の後、ロールがぽつりと言った。 「スープ、美味しかった?」 「え・・う・うん」 ようやくまともな会話が出来そうなのでロックは内心ほっとした。 「精力増強にいいらしいの・・・」 「へ、へぇ・・」 彼女が何を考えてそうしているのかは解らないではない、現に自分もそんな考えが無かった訳じゃないのだから。だが心の何処かで理性が懸命に欲求を抑えていた。 「データがおじいちゃんについていったなんて嘘」 「え?」 「私がカバンの中に入れちゃったの・・・二人きりになりたかったから・・・」 「な・・・何で?」 こんな事を聞くなんて野暮な奴だとは思いつつも、言葉が自然と口をついて出てきた。 「・・・女の口からこれ以上言わせるつもり?」 ロックの背後で何か面妖な動きがあった。布がこすれるような、そんな音と共に。 気配でロールがベッドに横たわるのが解った。今やもう、ロックの理性は何処かへ吹き飛んでしまいそうなほどに弱々しくなっている。手のひらを傷つけそうなほど強く握りしめた拳が最後の砦だった。のどがカラカラに干上がるのが感じられた。唾を飲み、呼吸を整える。逃げるに逃げられない、そんな絶体絶命の状況に追いつめられた様な感じだ。なにか些細なきっかけでもあればすぐにでもロールに襲いかかってしまうだろう。そしてその最後のきっかけを、彼女が渡した。 「来て、ロック・・・女の子に恥をかかせるものじゃないわ」 小さくため息をつき、天井を仰ぐ。そんな最後の抵抗も溢れる欲望には勝てなかった。 少しの恥じらいとためらいを連れ、二人は一つになった。愛に満ちた音とベッドの軋む音だけが暗い部屋に響いた。 翌朝、ロックが目を覚ましたときには既に部屋はかなり明るかった。仰向けのまま天井を眺めると、昨夜の事が幻のように思えてくる。だが横を見れば素肌に毛布を巻き付けただけのロールが眠っている。その寝顔からは昨夜の妖艶さは微塵も感じられない。14歳の、まだ少女のままのあどけない顔だ。 ロックは起きあがると、床に散らばった自分の服を着直した。ベッドの隅に丸まっている薄布を広げると、まだ真新しい下着だった。昨夜のために新調したのだろう。それを畳み直し、ネグリジェと一緒に彼女の枕元においてやると、ロックは部屋を出ていった。 「朝食、何がいいかな?」 To be continued?
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