俺的18禁 第2弾
「多感な季節」
〜文字が緑に見えてくるから不思議な文章〜


 正義団、午後11時。夕方からの雨が今も止むことなく降り続いている。

 その夜、華はなかなか寝付けないでいた。冷房のドライ運転で蒸し暑さは無かったが、妙に身体が火照って眠れない。何度寝返りを打っただろうか、瞼を閉じると決まって名前も知らない少女―あの2月14日、チョコレートを渡してくれた彼女―の顔が浮かんできた。想いを寄せる栄ではなく、だ。
「何で今更・・・」
うつ伏せになり、枕に顔を埋めてつぶやく。半年近く経って忘れかけていた記憶が今更甦ってくることを不思議に思っていた。ただ、中学生になって恋というものを理解し始めてきた今、同性からの告白は強烈なインパクトを持つものだった。
 そう、告白だった。あの時は照れもあって優達には話さなかったが、彼女は確実に自分に向かって「好き」だと言った。空耳ではない、ロボットならではの記憶力が声のトーンまでもはっきり覚えている。スピーカーと繋げれば音声として再生することも可能だろう。
 しかしまだあの時は恋心からの「好き」という意味がまだ半分くらいしか理解できなかったし、実際自分の持つ栄に対する想いが恋なのだというのが解ったのも雅の執拗な講義に寄るところが大きかった。だが、
「どうして・・・」
 考えないようにしようとするほど頭の中で彼女の占める割合が高くなっていく・・・雪の様に白い肌、流れるような黒髪、乱暴に触れば折れてしまいそうなほど華奢な身体、そして僅かに潤んだ瞳、湿った唇・・・同年代では見るからに頑丈そうな自分とは正反対の外見を持つ彼女が頭をよぎるたびに鼓動は乱れ、息が上がっていく。

 ぼつっ・・・雨垂れの音ではっ、と我に返る華。普通とは一線を画した彼女に必要以上に興奮していた自分に気が付き、背筋に冷たいものが走る。しばらく自分で自分を抱きかかえるようにしてベッドの上に座り込んでいた。が、
「私は・・・女だもん・・・!」
今までの考えを吹っ切る様にそう言うと、部屋を飛び出していた。



 かりかりかり・・・・薄明かりの下でペンの音が静かにこだまする。
栄は机に取り付けられたライトを頼りに書類のまとめを行っていた。彼の能力ならこの程度の書類、一部ほんの数秒で仕上げられるだろうが、人間が行うようなスピードでゆっくりと書いていた。
 ・・・どうしてこんな時間にあんな格好で・・・
それもそのはず、栄の後ろにあるベッドの上には枕を抱え、それに顔を埋めるように座っている華が居た。焦がれるような瞳でこちらを見つめ、時折官能的な吐息をもらしている。更に、華自身は気付いていないだろうが、パジャマの胸元が際どくはだけたままだった。
 ・・・突然こんな展開になるとは・・・
いつかこんな事になるだろうとは思っていた。が、それは不確定な「何時か」であって、こうなることは全く予想外の事だった。いずれ時期が来れば自分からアプローチをかけるのが自然だと思っていたから。

 のろのろと作業をしていても続けている限り仕事は終わってしまう。華が眠ってしまえばそれでもいいとも考えたが、彼女は起きていた。僅かに潤んだ瞳は焦点を結ばずにこちらへ向けられている。小さくため息を吐いた後、栄は努めて冷静さを装い、振り返った。
「どうしました?こんな時間に」
声をかけられ、華の肩が一瞬びくっと震えた。ゆっくりと顔を上げ、穏やかな目で見つめる栄を見る。暗い碧の瞳に、何もかも見透かされるような、そんな錯覚を覚えた。
「・・・・・」
少し口を開きかけ、すぐにうつむいてしまう華。部屋の中に通されてから今までの数十分、自分の想いを確認するには十分すぎるほどだった。
栄の気配、雰囲気、周りの空気だけであの変な気持ちは消え去ってしまった。声など聞けば、もうすぐにでも全てをさらけ出したくなる。それほどまでに深い恋だった。雅が典に惚れたような突発的なものではない。少なくとも初めて会って間もない頃は栄に対して苦手意識やそういった負の感情が先行していた。それがいつしか共通の話題を見つけ、栄の本当の心が解ってからはその冷静さや優しさといったものに、徐々に、ではあるが確実に惹かれていったのかもしれない。
「黙っていては解りませんよっ・・と」
栄の言葉と同時に華がその胸に飛び込む。小さな身体が小刻みに震え、銀色の髪が微かに揺れる。
 栄の驚いた顔が微笑み、華の肩を軽く抱き寄せる。声を立てずに泣いている理由は解らないが、妙な考えはどうやら無駄な思い過ごしだったようだ。

 しばらくそのままでいた栄だが、華の震えが止まったのに気付いてそっと身体を離す。自分の目を見つめるエメラルドの瞳にはまだ光るものが見えた。それをくちづけで拭い、頬にかかった髪を払ってやる。
「貴女に涙は似合いませんよ?」
僅かに華に笑顔が戻る。しかしすぐに真顔になり、栄の胸に顔を埋める。
「・・・・・ぃ」
かろうじて聞こえる声で華が言い、栄の表情が一変する。
しかしいくら待っても華はそれ以上を話さない。代わりに栄の背中に回した腕をきつく締めてきた。
「華・・・さん・・?」
肩に掛かりかけた腕を止め、少しの間考えを巡らせる栄。彼女はどんな意味で言ったのだろうか?ただ抱きしめて欲しかったのか、それとも・・・
 乱暴にならないように華の身体を離し、彼女の瞳を覗き込む。熱でもあるかのように焦点の定まらない双眸がゆっくりと細められた。今の彼女には普通の中学生にはまずあり得ない色香がある・・・それに耐えられず、気怠く開かれた唇に栄が自分のそれを重ねた。華は一瞬びくっとなったが、すぐに全身から力が抜ける。
 崩れ落ちそうになる身体を懸命に支え、栄に応えようとする華。だがその意識とは裏腹に力を入れようとすればするほど筋肉は弛緩し、感覚が麻痺してゆく。いつしか全てを栄に預ける形で唇を吸われていた。今は快感や欲望などは意識の中には全く存在しない。ただ求められるままに舌を絡め、火照る身体を更に熱くするだけだった。

 どれくらいの時が経っただろうか、唇を離し、耳元で栄が囁く。
「・・・良ければ、理由だけでも聞かせてくれませんか?」
この一言で華の混濁していた意識がはっきりとする。
 躊躇い、慎重に言葉を選びながら華が語り出す。自分を好きだと言った少女のこと、その情景に戦慄を覚えたこと、そして・・・
「・・・だから、私を、貴方のものにして・・・」
真摯な眼差しで訴える華。さっきとは打って変わり、しっかりとした表情だった。
「あの子に盗られない内に・・・私の全てを奪って・・・抱いて下さい」
言い、見た目よりがっしりしている栄の胸に再び顔を埋める。
 視線を正面に向けたまま、栄の脳裏に様々な思いが交錯する。今まで何人もの女性をこの腕に抱いた過去を持つ彼だが、ここまで切実な想いで求めてきた相手は居なかった。もっとも、声を大にして言えるような事ではないが。彼女が望むならそれでも良いとさえ考えたが、華の頭を包み込むようにして抱きかかえ、こぼれた言葉は、
「・・・もっと自分を大切にしてください・・・」
かつての栄からは考えられないものだった。求められるままに与え、欲するままに手にしてきた彼が愛に目覚め、他人を思いやる感情を持った結果かもしれないが。

 少しの沈黙の後、華は自ら離れて再びベッドに上った。哀願するような瞳でこちらを見た後、おもむろに着衣に手をかける。
「な、何を・・・・・・・!」
狼狽える栄の目の前で華は全ての衣服を脱ぎ捨てた。柔らかな曲線を描く褐色の肌が夜気に曝されて淡く浮かび上がる。あまりに唐突なことに視線を逸らすことが出来なかった。
 華がベッドから降り、またも栄の前に歩み寄る。しかし今度はその身に何も纏っていない・・・・・・栄の喉が鳴る。
「・・・もぅ・・・ムリなんです・・・・」
しゃがみ込み、椅子に腰掛けた栄の膝に顔を寄せる。濡れた声が耳にこびり付いて離れない。栄の視線はさっきから一点を凝視したまま留まっている。
「・・・独りじゃ・・・この火照りを冷ますことが出来ないの・・・」
華が艶やかに囁く。上体を上げ、今度は自分から唇を寄せる。
「栄・・さ・・ぁ・ん・・・・・・・・」
先程とは立場が全く逆になった。華が栄を求め、舌を差し入れる。しかし栄は僅かに反応しただけで微動だにしない。華は吸っていた唇を離し、三度、愛しい人の胸にすがり寄った。
「やっぱり・・・ダメですか・・・?」
憂う声が栄の耳に入る。滞っていた意識が急激に回復し、我に返る栄。その眼には計り知れない愛おしさが込められている。
「そこまで、私を求めて下さるなら・・・男が廃りますからね」
言うと、栄は裸体の少女を抱えてベッドに向かった。もう迷いは感じられない。
「こんな夜は愛の宴に酔うのも一興かもしれませんね・・・」
栄の言葉に頷き、静かに瞼を閉じる華。三度目に重ねられた唇は、今度こそお互いが等しく求め合い、狂おしく絡み合った。

 初めて味わう濃厚なキス。栄の巧妙な舌技に攻められ、身も心も濡れそぼってしまった華。優しい胸の膨らみにある桜色の突起は触れられてもいないのに硬く勃ち上がり、腿の間には熱くぬめった蜜が滴っている。
 唇を合わせたまま、栄の指先が蜜を湧き立てている泉へとあてがわれた。
「あっ・・・ぅ」
華が小さく息を洩らし、身体をくねらせて更に擦り寄っていく。感じているのだ、秘部をゆっくりと擦り上げる指を、生き物のように絡み付いてくる舌を。
無論、彼女にとってこんな体験は初めてのことである。どうなるかなど解るわけがない。ただ、直感的なもので次に為されるであろう行為を察し、驚くべき速さでそれに対処していった。特技と言っても過言ではない。

 指先に十分な量の蜜が絡み付くと、栄はただの上下に擦り上げる動きに微妙なアクセントを加えた。
「はぁっ・・・・・んぁ・・・・・・・ぁ」
唇を離し、あまりの刺激に喘ぐ華。その声は苦しさというよりむしろ情熱的なものだった。
 愛の蜜はすぐに栄の手の内に収まりきらない量になり、流れ、滴り落ちる。
「ひぅっ!・・・ぅ・・あっぁっ・・・」
華の頬が紅色に染まり、声のトーンが一つ高いところへ上がる。割れ目に沿って滑るように動いていた指が中にまで侵入してきたのだ。柔肉をまさぐり蜜壺を掻き回す。一度きりの愛撫で華は完全に切れてしまった。はぁはぁと荒い呼吸のまま栄を引き倒すようにしてベッドへと倒れ込む。その間も栄の攻撃は休まることがなかった。集中的に一点を攻め続け熱く甘い液体を迸らせる。そうしていつしかシーツには大きな染みが現れていた。
 艶っぽい声で大きく呼吸する華。口と指との波状攻撃でぐっしょりと濡れてはいたが、絶頂へと達する直前で止められるのを幾度と無く繰り返され、精神は既に半壊状態だった。
「・・・・っ・・・・ぁぅぅ・・・・」
欲情の炎が燻り、華の身体は弥が上にも熱くなり、愛しい人への想いが更に追い打ちをかける。

 栄は十分すぎるほどの愛液を確認すると高温の蜜壺から指を引き抜いた。淫猥に湿った音と共に少女の持つ独特の薫りが漂う。ロボットということを知らなかったならば完璧に人間だと思うほど、精巧過ぎるまでの造りだった。
 栄がたっぷりと愛液の絡み付いた手で愛おしそうに華の頬をなぞる。塗りつけられた液体が薄明かりを反射して妖しく煌めく。
「・・・綺麗ですよ」
少しばかり変態めいた気がある言葉だったが、華にはどうでもよかった。理性的に考えるゆとりなど少しも残っていなかったのだから・・・。はにかむような笑みを浮かべると、おもむろに栄の顔に手を伸ばした。
「これは嫌・・・ほんとうの顔で見て・・・」
栄が眼鏡を外し、切れ長の眼があらわになる。典のそれよりも鋭い目つきは威圧感さえ感じられる。もっとも、普段はそれを抑えるために眼鏡をかけているのだが。
 眼鏡が欲情をも抑えていたのか、再び栄による愛撫が始まった。先程のような局部への集中攻撃ではなく、両腕と口を駆使して全身をなぶる。華としても、直接的でなく沸々と沸き上がってくる快感に声も立てずに酔いしれている。幼さの残る身体が熱く燃え上がる。

 焦らされ、今や華の欲求は爆発しそうなほどにふくれあがっていた。激しく身体を動かして栄を求めるが、勿体つけるように首筋や内股をなぞるだけでなかなか彼女に絶頂を与えてはくれない。堪り兼ね、思わず声が出る。
「・・栄・・さぁ・・ん」
栄は媚びるように自分を呼ぶ華の声を、まるで楽しんでいるかのように相手にしない。
「さかえ・・さ・・ぁ・・・・・・・・・ん」
もう一度、尾を引いて甘えた声を吐きかける。女性、いや、雌の本能と言った方がいいかもしれない。今の華はそこまで乱れていた。
 「そこまで言わなくても・・・今、楽にしてあげますよ」
言い、身体を包み込むようにして栄が華を抱き寄せる。いよいよという思いからか、ぽろぽろと涙をこぼす華。その腰つきはとてもヴァージンだとは思えない程しっかりとしている。

 壁に掛けられた時計が丑三つ時を告げる。ベッドの脇のスタンドがどちらかの手によって明かりを消される。更に新月というのも手伝い、部屋に闇が訪れた。
「・・はぁっ、はぁっ、はぁっ、・・・」
漆黒の闇の中で規則正しい呼吸が続く。時折大きく息を吸い込む音と意味の無い言葉が混ざり、切なさや充足、歓喜などが全て入り交じったメロディを奏でている。そのメロディに、何かが激しく動く音と液体を何かに叩き付けるような音とがアクセントとなって加わり、部屋の隅々にまで響き渡る。
「ん・・・・・・・ぁっ・・・ぅぁっ・・」
リズムが乱れ、曲がクライマックスに差し掛かる。指揮者の動きに合わせて歌手が喉を仰け反らせつつ一際澄んだ声で最後の詩を叫ぶ。
「ひあぁっ!・・・ぅあっ・・・・はぁぁぁっっ・・・・・!!」
 目の前のあらゆる世界が真っ白に弾け、華の意識はそのまま闇へと溶けた。



 華の気が付くと辺りは既に明るくなり始めていた。大好きな人の匂いがついた枕に顔を埋めたまま半開きの目で昨夜の記憶を辿る。朦朧とした思考が暗闇の中での歌にたどり着くと、ゆっくり起きあがって辺りを見回す。部屋の中に栄の姿は無かったが、その代わりに、枕元に自分のパジャマがきちんと畳まれて置いてあった。
 てきぱきと着替え、汚れてしまったシーツを剥がし、頬を赤らめる。恋が愛へと変わり、あの妙な考えは完全に無くなった。
 何物にも代えることの出来ない、誰にも侵されない、純粋な想い。たとえどんな苦難に直面してもこれさえあれば乗り越えられる、そういう気持ちを見つけ出して、新しい季節が華の心に訪れていた。


END