ある日の俺的番外1
長いハナシはこんな感じにノベライズする事もあります。
しかもロビーの漫才と連動してたりもして。その辺のご理解を。

 雅のモデルチェンジから数日。
団長である俺の休息は全くと言っていいほど無かったり。

 2000/2/14(月)

 日本の菓子メーカーの商売魂によってチョコレートが大量に市場に出回る日だったりもするがそんなことは俺には関係なく、開設二ヶ月で1000HITするかどうかの事が脳内の30%近くを占めていた。
「ふい〜・・・もうじき二ヶ月か・・・」
事務室の机に突っ伏して俺が呻く。
「色々ありましたねぇ、増築とか引っ越しとか」
向かいで書類を整理しているのは栄だ。電脳空間なのにワ−プロも使わずにわざわざ羽ペンなんか使ってやがる。奴のこだわりといったところか。
「そう、いつも無茶ばっかやってヒーヒー言うんだぜ、団長」
栄の隣でゲー○ボー○と睨めっこしていた壮がこっちを見ずに言う。
「・・あっ!変な技使うんじゃねぇ!!」
カラー液晶に向かって怒鳴り散らす様はやはり俺の造ったキャラか。電源を切ってソフトを取り出す仕草もどことなく似ている。
 「・・・腹へったな、そろそろ飯か」
作りかけのデータをセーブして立ち上がると二人もそれに習って片づけを始めた。
 そのときの俺は居住区でまた面倒なことが起こっているとは思いもしなかったわけで。

 電脳空間に活動拠点を置いてからというものいたって平和な毎日が続いており、事件と言えばほとんどがERS(特に雅)の私情で、JUSTICEが出ることなど皆無となっていた。ううむ、維持費削減のために少し戦力を削るか。
 そんなことで秀は警備員もどきの仕事しかないし、栄と俺で雑用。典は優の手伝い役にされていて、壮に至っては部屋でごろごろしている毎日。せっかくの特殊能力、長距離瞬間移動を使う機会は雅と麗の足代わり。だらしないぞ、男共。

 それはいいとして、俺らが緩慢な仕事をしている頃、キッチンでは典が夕食の仕込みをしていた。
 無表情でキャベツを千切りにしているのは端から見ればかなり退くが、技術的にはかなりのモノである、ようだ、と思う。
規則的な包丁の音がキッチンに響く。一つのキャベツを千切りにするのにほんの数秒。機械みたいだ。・・・って、ロボットか。
タダの人形の様な典の顔にふと表情が生まれた。ドアを開けた音に気がついたのだ。
「優さん?こんなもんですか・・・って何だ、雅か」
キッチンに入ってきたのは雅だ。ついこの間モデルチェンジしてやったというのにまだ大きくしろとかぬかしやがる。誰の影響だ、それは。
「何だって何よぅ・・・」
創造主の俺には容赦ないツッコミ(蹴りとか拳とか)を入れる雅だが、同系機の典が相手だと少しはしおらしくなるようだ。鍋の中身を確認しつつ典のそばに寄っていく。
「残念だがまだ何も出来てないぞ」
典はそんな雅には目もくれずに冷蔵庫から魚を出してさばき始めた。優に勝るとも劣らぬ腕前ではあるな、うん。
 プロの料理人顔負けの包丁さばきを黙々とこなす典の横顔を、雅は黙って見つめていた。その焦がれるような眼差しはまさに恋する少女のそれだった。
 5匹目の魚を開き終わったとき、典が顔を上げた。
「何だ?」
いきなり直視された雅の顔が赤らむ。怪訝そうな面持ちで典が加えた。
「用がないなら優さん呼んできてくれ」
言ってまた調理に戻る。雅はふと寂しそうな表情を浮かべると典の背に寄り添った。
「・・・あのな、今はお前と遊んでいるほど暇じゃないんだ」
何の反応もせずに典が言う。雅は少し迷ってから口を開いた。
「典は、お姉ちゃんのことが好きなの?」
フツーの男ならここで何かあることに気がつくモノだが、こいつの場合は違った。
「まぁそうだな」
世間話でもするかのようにさらりと言ってのけたのだ。
「そう・・・」
雅の顔が途端に曇る。ゆっくりと離れると人が違うかのようにのろのろとキッチンから出ていった。
「何だ、アイツ?」
典は自分のしたことをまるで気にもとめずに再び魚をさばきだした。

 キッチンから雅が出るのとダイニングに優が入ってきたのがちょうど重なった。
「どしたの?らしくないじゃない」
いつもと違う妹の様子に気づいた優が声をかける。こいつも相手によってキャラが変わるなぁ。身内にゃ容赦しねぇ、厳しいオネェさんだよ、全く。
「何でもない・・・」
雅はうつむいたまま部屋を走り去った。
「ちょっ・・・涙?」
雅の目に光るものを見た優は、それ以上詮索するのを止めた。
「何があったのよ」
訳の解らないといった表情でキッチンに入る。ちょうど典が魚をさばき終わったところだ。「ご苦労様・・・何かあったの?雅と」
「さぁ?俺にはさっぱり」
ここまで来ると凄いものがある。遠回しの告白はこいつには全く解らなかったようだ。
「へぇ・・・・ん?何やってんのよ、アンタ」
荷物をテーブルの上に置いた優がテーブルの下にいた秀に気がついた。本当に何をやっとんだ?こいつは。
「いや・・・ちょいと驚かしてやろうかと思ったらこっちが驚かされまして・・・んっ、と・・抜けた」
狭いところからやっとの思いで抜け出した秀はどうやって入っていたのかと思う程の身体だ。
「お前・・・どこから入ってきたんだ?」
さすがに典もこれにはビビッたようだ。目が点になっている。
「初めから居たんだよ、ここに」テーブルの下を指す。「いつ気付くかなーなんて思ってたら全然気付かんで、お陰で真相はバッチリ」
最年長のくせにやることは子供だ。
「さて典君、いくらなんでもアレは酷いでしょう」
言いながら椅子に腰掛ける。
「すっぱり言い切るのもいいけどねぇ、もう少し考え方があったんじゃないかねぇ?」
「・・・ハナシが見えないけど?」
優が睨む。
「しかし驚いたねぇ、お前がまさか優を好きだったとは」
感慨深げに秀がつぶやく。
「ゑ?」
「はぁ?」
これには優ばかりか典まで驚いた。
「はぁ?・・・って、俺にはそう聞こえたがね」
「あぁ・・・別に恋愛対象としての好きって事じゃない、料理の腕への憧れみたいなものだな」
典の説明を聞いてようやく秀も納得言ったようだ。道理で、と言ってまた口を開いた。
「だったら、余計まずいんじゃねぇのか?誤解したまま思い詰めてるぞ、きっと」
「何がまずいんだ?俺が何かしたのか?」
ざざざざざ・・・・・ばん。
秀が壁際まで退く。目が点、口が半開き。締まりのないとはこういうことを言うのだろう。
「どーゆー事よ?」
優が秀に詰め寄る。
「いや・・かくかくしかじか」
ばん。
詳細を聞いた優まで退く。大げさな奴等だ。
「何だ?そんなに悪いことしたのか?俺は」
典が本気で困った顔になる。鈍感もここまで来ると誉めてやりたくなるな。
「あ・・・あのね・・むぐぅ」
説明しようとした優の口を押さえて秀が話し出した。
「そ、そう、その通り!お前は雅にとんでもなく酷いことをしてしまったのだ」
自分の力説にうなずく秀。
「お前は気付いていないかもしれんが雅は凄く傷ついている!そこでぇ、二人の性格とこれまでの経緯を考慮した結果ぁ・・・」
典の目は真剣そのものだったが、
「何も言わずに抱きしめる!!これが一番!」
この一言で顔が変わった。
「俺を殺す気か?そんな危険な真似出来るか!」
もはや秀に何か考える気力は無くなってしまった。げんなりと脱力して椅子に座ると
「もういいです、参りました・・・はっきり言おぅ、雅はお前に恋してるんだよ」
投げやりな説明をする秀。好きにしろと手をぶらぶらさせている。しかし典はこれでようやく全部理解したようだ。はぁ・・・とか、それで・・・とか言って一人で何やら考えだした。やがて顔を上げるとすたすたと行ってしまった。

 「アイツにゃ遠回しなのは無駄だな・・・疲れるだけだ」
秀は力無くリビングでコタツに潜り込み新聞を広げる。オヤジか、お前は。
「どうしようもねぇ事件ばっかだな」
と、そこへ華と麗が学校(ロボットでもねぇ、ほら、義務だし・・・週二日ほど)から帰ってきた。
「ただいま〜!おねーちゃん、チョコ買ってきてくれた〜?」
無駄に威勢のいいのは麗だ。誰にやる気だ?おまいが。
「秀さん、チョコ食べる?」
華は困ったような顔をしている。カバンを降ろして中からカラフルにラッピングされたチョコレートを取り出した。
「モテモテだねぇ、華チャン」
「くれるって言うから貰ってきちゃったけど・・・やっぱり変だよねぇ、私も女の子なのに」
「俺は甘いのダメだけど・・・誰かあげる人に一緒にやっちゃえば?」
ずいぶんと簡単な答だ。
「それじゃくれた子に失礼じゃない、市販品だもん、深い意味は無いわよ、きっと」
優が軽く小突く。
「ほら、華の分、誰にあげるのかしらねぇ?」
「べ、別にいいでしょ誰にあげても」
華はチョコをひったくると急いで走り去った。
「若いっていいねぇ・・・」
しみじみと秀がつぶやく。やっぱりオヤジだ。
「俺には無いんですかい?優サン」
「どーせ食べないでしょ・・・それでも欲しい?」
かすかな期待を胸に優が聞く。
「いらない」
「ああそう」
真顔で答えた秀にむっとしてキッチンへ行ってしまった。

 典は雅の部屋の前にきていた。注意深く中の様子をうかがうが音はしない。まだ落ち込んでいるようだ。
トントン。
ノックをして声をかける。
「入るぞ」
雅はベッドの上で丸くなっていた。典が部屋にはいるとすすすと身体を後ろに向ける。拗ねているのだ。
何も言わずに典は背中合わせになるようにベッドに座り込んだ。しばらくの間沈黙が続いた。
 先に口を開いたのは典だ。少し横を向いてから視線を戻して話し始めた。
「悪かったな」ぶっきらぼうだがどこか優しさが見える話し方だ「気付いてやれなくて」
「・・・何よ」
雅の声は少しつまっている。泣いていたのか。
「典はお姉ちゃんが好きなんでしょ」
苦笑混じりに典が振り返る。
「・・・本当にそう思うか?だとしたらここに来る理由が無いだろう」
「えっ・・・?」
雅がぴくっとして顔を上げると窓越しに典と目が合った。その顔がゆっくりと縦に揺れる。見る見る笑顔になる雅。振り返りざまに典の首っ玉に抱きついた。
「だっ・・・抱きつくな・・重・・・くないのか」
「そうだよ、もう重いなんて言わせないんだから」
真剣な顔で雅が言う。誰のお陰で軽くなったんだよ。
「・・・だいすき・・」
典の首に抱きついたまま雅は眠ってしまった。そっと腕を外すと典は部屋から出ていった。

 「め〜し〜」
魔物の如く俺がダイニングの扉を開ける。ちょうど支度が整ったところだ。
「ぐっどたーいみーん」
秀がテレビを見ながら言う。
「雅はどうした?」
チャンネルを変えて座りつつ俺が聞く。
「あ!てめぇ!後半いいとこなのに」
「うるっせ!!ニュースじゃ、ニュース」
「面白いよな、この二人」
「そうですね」
栄と壮が秀と俺のやりとりを冷めた目で見る。やめてぇ。
「おっはよ〜う!」
雅がやってきた。
「おはよう?寝てやがったろう、おまい」
「寝過ごしちゃった」
「それで済むのか?7時過ぎだぞ」

・・・・・なんてくだらない会話で夜は更け、いつもとちょっと違う一日が終わるのだった。
もう少し続きが。
気になる人は漫才第4回へGO!!