俺的小説第二弾
「続・ロックマンDASH」
〜Toron´s Diary〜



 果てしなく広がる大海原・・・海と陸との境も判らないような海の真ん中に、陸を求めて彷徨う一艘のボートがあった。なぜか、後部のクレーンに巨大なディフレクターを吊しながら・・・

1 新たな島


 「は・・・腹が・・・何か・・・食いもん・・・」
キャビンの中で男が情けない声を上げている。テーブルに伏した顔の脇には、コップに水が注がれている。
「水、みず、MIZU、水じゃ腹はふくれねぇよなぁ・・・はぁーーー・・・」みれば、あたりには保存食の缶や袋が散乱しており、そのどれもが少しのかすも残っていない。「せめて魚でも釣れりゃあなぁ・・・何で雑魚一匹釣れねぇのか・・・」
自分では何もせずに、偉そうなものである。
と、突然デッキで歓声が上がった。
「何だぁ?・・うるせぇなぁ・・腹に響くぜ・・・」男はデッキへ出ていった。
「あー、ティーゼルさまーー」デッキにいた五人くらいの子供達の一人が男に声をかけた。「みてください、おさかなですーーー!!」
子供らの一人が、今釣り上げたばかりの魚を誇らしげに掲げた。
「おぉ!やるじゃねぇか、なかなかの獲物だぞ、これは」ティーゼルと呼ばれた男は先刻とはうってかわってはしゃいでいる。「ようし、早速・・・いやいや、ここで俺が食っちまっちゃあいけねぇな、うん。」
なにやら自己完結して、ティーゼルはキャビンへ声をかけた。
「おーい、トロン、ちょっと来てみろ」
「どうしたんですの、お兄さま」
デッキへあがってきたのは一風変わった少女だ。奇抜な髪型に作業服、耳と胸元にはボーンマークの飾りをしていた。そう、この少女こそ空賊ボーン一家の長女、トロン・ボーンであり、先ほどのティーゼルという男が一家の主、ティーゼル・ボーンその人である。そしてあの、釣りをしていた子供達が、コブン達だ。
「おぉ、トロン。コブン達が魚を釣り上げたぞ、おめぇたちで食っていいからな」
なかなか兄姉思いのやつである。
「ありがとう、お兄さま。・・・でもお兄さま?そんなこと言って、もう二週間も何も食べてないんじゃないですの?大丈夫なんですか?」
心配そうに見つめるトロンに、
「なーに、俺のこたぁ気にすんな、」空元気とも思えるように明るく振る舞うティーゼルだったが、正直いって大丈夫なわけがない。カトルオックス島を離れてもう二十日あまり、さらに3人と40体の大所帯、一週間分の保存食など三日と持たなかった。甲板で魚を釣って飢えをしのいでいたのだが、それも焼け石に水、最後に口に入ったものといえば、アジの半身一切れのみ。後は大量にある水で空腹を紛らわす毎日だった。「まぁもっとも、おめぇ達がどうしてもってんなら、話は別だが」と言うわけで、後の方が本音である。
「もう、そんなこと言って、我慢は体によくありませんよ。きちんと食べてもらわないと、私たちが心配するんだから」
そう言ってトロンは、さっさとキッチンへ入っていった。
「うぅ、すまねぇなぁ、トロン」ティーゼルの目にはうっすら涙が浮かんでいた。「おめぇみてぇな妹がいて、俺はほんとに幸せもんだ」かなりアレである。

 翌朝、惰眠をむさぼるティーゼルの部屋に一人のコブンが駆け込んできた。
「ティーゼルさまー、しまがみえましたー」
「あぁー?たまにはゆっくり寝かしといてくれよ・・・島が見えたからなんだって・・・・・何ぃ!?島だぁ?」なかばお約束の反応をしたあと、寝間着姿のままデッキへ駆け出した。「おぉ!やっとこさ島が見えたか!」ティーゼルの持つ望遠鏡には、くっきりと島影が映っていた。
「よーっし!ヤローども、配置につけ!」ティーゼルの号令で、コブン達が一斉に駆け出した。「全速前進!目標・・・なんて島だ?あそこ・・・・まぁいいや・・とりあえず、あの島!」
「いくぞー、せーの」コブン達は手に手にオールを持っており、船の両脇からこぎ出している。「いーち、にーい、」一号が号令をかけているが、なかなかそろわない。一時間近くかかってやっとそろってきた。

 「しかし・・・人はいるんだろうなぁ?」キャビンではティーゼルとトロンがなにやら話し合っている。「無人島なんてこたぁねぇだろーなぁ」
「うーん、多分、この島ですわ、お兄さま」トロンが、見ていた地図の一点を指す。
「あん?」
「ここが、カトルオックス島、で・・ここがライシップ島、星の動きからみて、今私がいるのがこの辺り・・・とすると、ここから見える島はこの島だけですわ」トロンの指す島は、結構大きい。「名前は消えてしまってますわね・・・でも着けば解ることですから別に問題ありませんね」
「あぁ、そうだな」ティーゼルは妙にそわそわしている。
「どうかしましたか?お兄さま?」
「あ・・・いや、なに、あのディフレクターな、いくらぐれぇで売れるかと思ってよ」
「そうですわねぇ・・・1千万位いくんじゃないですか?」
「うーん・・・そうだな・・」一人で考え込むのが彼の特技なのか、一人でぶつぶつ言い出した。
「それじゃ、私はあのコ達見てきますから」
トロンが出ていっても、ティーゼルはまだ独り言を言っていた。

 「んーーーっっっ・・・はぁっ、久々の陸だなぁ・・・・」桟橋でのびをしてティーゼルがつぶやいた。「なにはともあれ、陽のあるうちに上陸できてよかったぜ」
太陽はもう水平線の彼方に沈みかけている。
「さーて、俺ぁちょっくら手続きに行って来るからよ、そこらでなんか買いもんでもしてきてくれや、トロン」
「解りましたわ・・・じゃ、あなたたち、一緒にきて。ほかのコはおそうじ、たのむわよ」
「はーい!」
「わかりましたー」

 市場は活気にあふれていた。店先では売れ残りを出すまいと、店員が声を張り上げている。あちこちの大衆食堂からは、空腹に堪える香ばしい匂いが漂ってくる。
「トロンさまー、いいにおいですー」
「あっちでやすうりしてるみたいですよー」
「100ゼニーおちてましたー」
コブン達はあちこち走り回って危なっかしい。
「ほら、あまりうろうろしないの!まいごになるでしょ」いつもは迫力のあるトロンの声も、市場の喧騒にかき消されてしまう。「まったく・・・ほら、帰るわよ、みんな待ってるんだから」
「はーい」
トロン達が大量の食材を抱えて船に戻る頃には、すっかり日が暮れていた。

 「あんた、ディグアウターかね?」役所の係員は気さくな老人だった。
「ん?あぁ、まぁな・・・」手続き用紙に必要事項を書き込みながらティーゼルが言った「まぁもっとも、今は艦がねぇから開店休業中だがね・・・ほい、こんなとこだ」
「そうかい?そう言やぁ、こないだも不時着した船があったなぁ・・・おや、あんたん所、使用人が40人もいるのかい、たまげたなぁ」無論、使用人とはコブン達である。「いろいろと大変だろぅ?こんな多人数」
「そうでもねぇよ、慣れちまえばいいもんだぜ・・・ちぃっと、うるせぇけどな」停泊許可証を受け取り、「ありがとよ、じいさん」それだけ言って、表に出た。
「さて、少し遅くなっちまったな・・・・っく〜、さすがに夜は冷えるぜ・・・」
空には満月が輝いていた。

 「・・・と、言うことで、明日は街に行ってそれぞれ必要物資を探索すること」キャビンでトロンがコブン達に話している。「解った?」
「はーい、わかりましたー!」いつものように無駄に元気なコブン達の声がハモって返事をする。
「じゃ、今日はもう遅いから、明日に備えて早く寝なさい」
「はーい、おやすみなさーい」
コブン達全員では部屋に到底入りきらないので、20人ずつ交代で部屋の中で眠る。そのため、ほかのコブン達は通路などで眠ることになる。

 トロンは一人、部屋で日記を書いていた。

・・・お母様、やっと新しい島にたどり着きましたわ。
今度の島は結構大きくて、街も賑やかです。
たぶん、大きな遺跡もあると思うので、探してみる価値はありそうです。
でもその前に、新しい艦、造らないとだめですね。
あ、それと、あのディフレクター、いくらで売れるか楽しみです・・・

 「・・・もうこんな時間、そろそろ寝ないとね・・明日もあるし」ノートを閉じ、ベットにもぐりこみながら、写真立ての両親に「おやすみなさい」と、声をかけて眠りについた。

2 再会


 翌朝、空には太陽が燦然と輝き、絶好の買い物日和だった。港の漁船が漁から帰ってきており、市場はにぎわいをあふれさせている。
 ボーン一家の船は、港の一角のヨットハーバーに停泊している。
キャビンでは、トロンがコブン達を起こすのに奮闘していた。
「ほら、ぐずぐずしないの、早くしないとおいてくわよ!・・・・って、あなた、立ったまま寝ないの!」
大体のコブン達は、自分で朝食の準備までするのだが、一部のコブンは、かなり寝起きの悪いのがいる。中には朝食を食べながら寝てるのまでいるほどだ。
「おい、トロン、俺はそろそろ出かけるぜ・・・何軒か、目星付けといたからな」
ティーゼルは何人かのコブン達と、あの、超大型ディフレクターを売りに行く手筈になっている。
「あ、はい、頑張ってくださいね、お兄さま」
「おう、任しとけ!んじゃ行くぜ、ヤローども」
「おー!」ティーゼルにくっついているのは、過激なコブンが多いようである。
「それじゃ、私たちもそろそろ出かけるわよ・・・ボンの面倒、ちゃんと見ててね」

「トロンさま、ぼくたちどこへいくんですか?」
「えっと、とりあえずジャンク屋で使えそうなパーツ探して、当面の食料買って・・・後は造船所よねー、ゲゼルシャフト号の代わりになるようなのが造れればいいけど・・・」
「でも、おかねがありませんよー?」
「ん?あぁ、それは、あのディフレクターを売ったお金でなんとかすればいいの」
「そーですか、わかりました」
「トロンさまー、ありましたー!ジャンクやさんですー」店を探しにいったコブン達が戻ってきた。「3げんみつかりましたー」
「よしよし、じゃあ早速行ってみましょ」
「らじゃー、こっちでーす」コブンの案内で、一行はジャンク屋へ向かっていった。

 薄暗い路地裏をふたつの影が走っている。一つは丸く、もう一つは長い。
「へぇ、へぇ、ここまで来れば大丈夫やろ」丸い方が長い方に声をかける。
「ふぅ、ふぅ・・そうですわね、ここまでは、追ってこないんじゃ無いかしら・・ふぅ」長い方はやけに低い声だが女言葉だ。
「・・・しかし、これからどーする?」かなり走っていたのか、声がかすれている。
「とりあえず、この街からは出ないといけませんわね」
「そーやな・・まぁ、簡単やろ、ガキと娘っこ相手じゃ」どうやら、二人はどこからか逃げ出して来たらしい。「よっしゃ、ほんなら、車が必要やな」
「解りましたわ、車、ですわね」長い方の目が、危険に輝いた。

「はぁ、二件目も大した事無かったわねぇ・・次は?」
大型店から出てきたトロン達は、ほとんど荷物を持っていなかった。
「えーっと、あそこですー」コブンが指す方向に見えるのは、華やかさのカケラもない、少々くたびれた風の建物だ。「どーします?いきますか?」建物の雰囲気を悟ってか、あまり乗り気じゃないようだ。
「しかたないわ、だめで元々、行ってみましょ」
道路には横断歩道がないので歩道橋を渡って向こう側へ行くことになり、近くの歩道橋へ歩き出した。
「ぎゃうっ!」一番建物よりを歩いていたコブンの一人が、いきなり路地から出てきた人にぶつかって、悲鳴を上げた。
「アラ、ごめんなさい・・・って、アンタ達・・!」出てきたのは、さっきの長い影の男だった。
「あ・・・あんた確か・・・ロース一味の・・・」トロンがつぶやいた「・・オカマ」
これを聞いた男は、「グライド様とおよび!」即、言い返した。
「なんであんた達がここにいるのよ?・・まさか、脱獄してきたんじゃないでしょうね」
「マァ、人聞きの悪い!いいこと、アタシ達は、護送車の扉が開いてたから、遠慮なく出てきたのよ・・・なによ」さも当然のように話すグライドだが、トロンの視線は冷ややかだ。「文句あるの!?」
「なーにやっとんのや、グライド・・・」なかなか行動に出ないグライドに業を煮やしたのか、丸い影の方がゆっくりと出てきたが、トロンを見て固まってしまった。「うげっ・・・お前は・・ボーン一家の娘っこ・・」
「ロース、あんたもいたの」あきれ顔で二人を見ながら、トロンはため息をついた。「よりによって、こんな奴らに会うなんて・・・はぁー」
「こんな奴らで悪かったわね!全く、こっちが嫌になるわ」
「まぁええわ・・・嬢ちゃん、おっちゃん達ちょいと急いでんねや、どいてくれんか」ロースは、とりあえずここから離れたいらしい。
「別にじゃまなんてして無いじゃない、横を通るなりして行けば?」トロンには、道を譲る気は到底なさそうだ。
「ほうか、ほんならそうさせてもらうわ」
ロースが歩き出そうとしたとき、トロンの後ろの方で声がかかった。
「見つけたぞ!脱走犯!!」
青いアーマーを着けた少年が、道路を滑るようにして走ってきたのだ。
「げっ・・見つかってしもうたで、グライド」ロースは、明らかにうろたえている。「どないすんにゃ」
突然現れた少年に驚いたのはロース達だけではなかった。
「うそ・・・・どうして・・」
トロンは彼を知っていた。いや、初めて遭った時から、片時も忘れることが出来ない存在にさえなっていた。
「・・・ロック」
その少年の名は、ロック・ヴォルナット。以前、ボーン一家をこてんぱんに叩きのめした実力の持ち主で、ゲゼルシャフト号も彼によって墜とされた。そして、トロンが最も気になっている存在である。
「おとなしく手を挙げて、頭の後ろで組むんだ」
トロンに気づいてない訳は無いだろうが、ロックは冷静にロース達に命令していた。
「どどどどうすんにゃ、グライドぉ」ロースはもう、パニック寸前である。
「仕方ありませんわ、こうなっては大人しく言うことに従・・・・・う訳無いでしょ!」
グライドはそう言うと、トロンを無理矢理引き寄せて、羽交い締めにした。
「あんたねぇ」しかし、トロンは冷静だった
「わーん、トロンさまをはなせー」
大変なのはコブン達で、手足をばたばたさせてわめいている。
「うるっさいわね!静かにおし!!」それも、グライドの一括で収まってしまった。
「くそ・・卑怯だぞ!女の子人質にするなんて」
「おーほっほっほ、悪人て言うのはこういうものなのよ!」
悔しがるロックに、高笑いを浴びせながらグライドが言った。
「でかしたで、グライド・・さーて、ぼっちゃん、大人しく引いてもらいましょか・・それとも、この娘っこ、どうにかしてしまいましょか?」
「くそっ・・・・解った。彼女を放せ」ロックは仕方なく左腕のバスターを下ろした。
「フフッ、どうやらアタシ達の勝ちのようねぇ・・悪く思わない事ね、運がなかったのよ・・おーほっほ・・がっ!」不意に、グライドの体が沈んだ。
「!!なにしてくれてんねや!あぁ、白目むいてしもーたがな」
トロンが、裏拳を顔面に叩き込んだのだ。
「緩すぎるのよ、力が・・・前の私と一緒にしない事ね、結構鍛えてるんだから」
「ぬぬぬぬ・・・こうなったらもうヤケや、いてまえー!!」
「動くな!!」ロースがロックに体当たりしようとして走りだそうとした瞬間、横から声がした。「脱走犯ロース、並びにグライド、公務執行妨害及び脅迫未遂、傷害未遂罪でタイホします!!」現れたのは、まだ若い婦警だった。
「せやった、もう一人おったんや・・・」ロースはその場に座り込んでしまった。

 まんがみたいにロープでぐるぐる巻きにされたロース達を車に押し込めながら、婦警がロックに話していた
「ありがとう、ロック君、おかげで助かっちゃった」
「いや、彼女のおかげですよ」
「そう言えば、あの子、知り合い?」
「えぇ、前に何度か・・・」そう言うとロックは、トロンの方に歩み寄って行って声をかけた。「やぁ、久しぶりだね」
「なんで・・なんでこんな所にいるのよ・・・」
トロンは胸にこみ上げてくるもので上手く話すことが出来なかった。
「えっ・・・?」
戸惑うロックから視線をそらせながら付け加えた
「もう、逢えないかと思った・・・」話すと言うより、つぶやきである。
「・・そうだね・・・でも、またこうして会えて嬉しいよ」ロックの言葉には、飾りがない。だから、ストレートに相手に届く。
「・・・ありがと・・・・助けてくれて・・・」トロンは完全にうつむいてしまっている。
「いいよ、お礼なんて・・こっちが謝らなくちゃ、危険な目に遭わせちゃったし・・・」
「あれくらい・・!」思わず顔を上げて頬を赤らめた。思っていた以上にロックの顔が近くにあったためだ。「どうってことないわ」
「じゃ、そろそろ行くよ」そう言って、ローラーダッシュをスタートさせた。「またね」
 ロックが去ってからも、しばらくトロンは動けなかった。それを見かねて、婦警が近寄ってきた。
「久しぶり」いたずらっぽく笑う顔には見覚えがあった。
「あ・・・もしかして、あのときの・・」
「そ、ライシップ警察のデニッシュ・・・乗って。送っていくよ、もちろん、あんた達もね」コブンの頭を軽くたたいてパトカーの扉を開けた。「あまり、居心地は良くないでしょうけど」

 パトカーは市街地を走り抜けて郊外の道を走っていた。この辺りになるとまだかなりの自然が残っている。遠くの山岳にはちらほら赤や黄色に色づいた木々が見えるが、まだこの辺りの草原は深い緑に覆われており、昼寝などしたら気持ちよさそうだ。もっとも、今はそんな季節ではないが。
 「ごめんね。先にこの荷物、届けないと」運転席にいるデニッシュは、以前会ったときよりも警官が板に付いてきているように見えた。「よけいな手間とらせるんだから」
「それって、あなたの責任じゃないの?・・・鍵かけ忘れたって」
「うっ・・・そ、それは・・」
助手席のトロンにつっこまれて苦笑いする様は、やはり前のデニッシュだった。
「そんなことより、どうしてこの島に?」デニッシュは無理矢理話題を変えてトロンに質問してきた。「また悪さしにきたんじゃないでしょうね」
「まさか。あのときは、非常手段で銀行とか襲ったけど、いつもはあんな事やんないの・・・一般的なディグアウターよ」
「ふーん・・・ま、いいか、あんたのおかげでロース一味をタイホできたんだし・・あれから結構活躍できてね、今じゃ警部補なんかになっちゃって・・・似合わないでしょ?そんな役職」
「そうね。あなたには一刑事が似合うわ」
「そんな簡単に言わないでよ・・・」
二人の漫才をよそに、車は目的地へ着いた。
「ここって・・・刑務所?」
着いた先は、刑務所としか考えられないが、とてもそうは見えない爽やかなところだった。門は開け放たれ、辺りの木々はきちんと手入れされており、庭には噴水まである。
「・・・に、見えないわよねぇ」
本職の警官が言うのだから世話がない。
「学校みたい・・・あいつらにはもったいないわね、こんなところ」
後ろから来た護送車を目で追いながらそんなことをつぶやいていると、
「中は、結構凄いらしいわよ・・・見たくもないけど」
手続きを終え、戻ってきたデニッシュが受けて応えた。
「門が開いてるのも、『逃げられるものなら逃げて見ろ』っていうことらしいわね・・・まぁ、そんなことどっちでもいいけど」
「そうね、関係ないもん」

 とりとめもない会話のおかげで、郊外から港まではあっという間に到着したが、太陽はすでに沈みかけていた。
「ありがと、送ってもらっちゃって」
バンで寝ていたコブン達を起こして、トロンが言った。
「いいの、ついでだもん・・・じゃ、元気でね。私はライシップに戻るわ」
「うん、気をつけてね」
デニッシュの乗るバンを見送りながら手を振るトロンに、一人のコブンが鋭い指摘をした。
「トロンさまー、ジャンクやさんはどうしたんですかー?」
「あ゛・・・忘れてた・・・」
トロンの目が点になる。
「もうしまっちゃってますよ、あのおみせ」
コブンがメモを見ながら応えた。営業時間をメモしてきたのだ。
「そう、仕方ないわね、明日にしましょう」
そう言うとさっさと船に入っていった。
「はーい」
コブン達も後に続いた。

 「喜べ!ヤローども!!」ティーゼルが帰ってくるなり大声を上げた。「ビッグニュースだ!」なぜか、手には大量のチラシを抱えていた。
「お兄さま・・・一体どうしたんですの?」
「おうトロン、あのディフレクター、いくらんなったと思う?」
ティーゼルの顔はかなりにやけている。
「え・・・いくらで売れたんです?」
ティーゼルの迫力にトロンはかなりびびっていた。それを見たティーゼルはにやりと笑い、指を3本突き出して叫んだ。
「聞いて驚け!三億ゼニーだ!!!」
「さ・・・三億ぅーーー?!」
予想も出来ない額ににわかには信じられないと言った表情でかたまってしまったトロンにティーゼルが付け加えた。
「いやな、そこらのジャンク屋やディフレクター商なんかに持ってっても大した額にゃあならねぇと思ったんでな、思い切って銀行に持ってったんだよ」どうだ、賢いだろうと言わんばかりの顔でさらに続けた「したらな、すぐに頭取が出てきて、あれよあれよと言う間に前金として一億ゼニーを口座に振り込んでな、腹んなかじゃ笑いが止まらなかったぜ」と言い、豪快な笑い声を上げた。
「ところでお兄さま、そのチラシはなんですの?」
トロンが、気になっていた大量のチラシについて訪ねると、
「おぅ、これか。まぁなんだ、金はあるがとりあえずの住処がねぇだろ」そう言ってチラシをテーブルの上に広げた「いつまでもこんな船ん中じゃあ、ボーン一家の名折れだ。そこでだ、安くて設備のきちんとした一軒家がねぇかと思ってな。新しい艦も造らなきゃならねぇしな」それだけ言っていすに座り込むと、チラシを一枚一枚調べ始めた。
「それで、あなた達の方はどうだったの?」
トロンが偵察に出かけていたコブン達に聞いた。
「えーと、いっちょうめにはとくにかわったものはありませんでしたー」
「うーんと・・・にちょうめにはスーパーマーケットがありました」
「さんちょうめにはジャンクやさんがありましたー」
「みなとのはずれにおおきなドックがありましたー。あそこならあたらしいゲゼルシャフトごうがつくれそーです」
「よしよし、ちゃんと調べてきたわね」
コブン達の書いてきたメモを見ながら簡単な地図を描いていたトロンがふとペンを止めた。
「健康ランド・・・?何これ?」
メモを書いてきたコブンに訪ねる。
「えーと、なにやらおんせんをつかったしせつみたいですー。パンフレットもありまーす」
トロンはコブンが取り出したパンフレットを受け取り、ぺらぺらと眺めた。
「ふーん・・・要するに銭湯みたいな所ね・・・行ってみようかしら」
と、いうことで、トロンと数人のコブン達は健康ランドなる施設へ行ってみることにした。

 「うわー、いろんなところがありますねー」健康ランドの正面ホールの施設案内をみながらコブンの一人が言った。「トロンさまー、どこにいくんですかー?」
「決まってるじゃない、おフロよ、おフロ・・・まったく、あなた達あの船にシャワールームすら付けないんだもの、いやんなっちゃう」トロンも年頃の女の子というわけだ。
「ぼくたちはどうすればいいんですか?」別のコブンが問いかける。
「温水プールででも遊んでなさい・・・うるさくするんじゃないわよ!」
「はーい」

 浴槽の縁にもたれて、打たせ湯のとめどもなく落ちるお湯を眺めながら、トロンは一人物思いにふけっていた。

・・・それにしても、今日はいろんな事がいっぺんにおきたわね・・・変な奴らには会うし・・思ってもみなかったわ、あのコに会うなんて・・・またおかしくなりそう・・変な感じ・・・・・・・・・3億なんてお金、どうするのかしら、お兄さま・・・家を建てるとか言ってたけど・・・・

「うー・・・もうだめ、ゆでダコになっちゃう・・・おハダにはいいかもしれないけどね」

 時間的なこともあってか、浴場には数える程度の人しかおらず、さらに広さも手伝ってほとんど貸し切り状態だった。
「あーあ、かなり痛んじゃったなぁ」
鏡の前で髪をとかしながら毛先をながめ、ため息をもらした。
「切るしかないかな・・・」
ふと、隣の人が視界に入った。向日葵のような金髪の少女だ。年はトロンと同じくらいか、少し上といったところか。
トロンの視線に気づいたのか、彼女は少し笑って話しかけてきた。
「あなた、この町の人?」
いきなり声をかけられたので少し驚いたが、トロンも笑顔で応えた。
「ううん、違うわ」
「じゃあ、ディグアウター?」
彼女は振り返りながらまた聞いてきた。
「ええ、メインじゃ潜らないけどね」
「え?それじゃ潜ることもあるんだ・・・私は、オペレータしかしてないけど」
どうやら彼女もディグアウターらしい。
「じゃ、この島に遺跡ってあるの?」
今度はトロンが彼女に質問した。
「うーん・・・一週間ほど前に着いたばかりだから・・・まだあまり詳しくないの。ごめんね」
彼女が少し困った様な顔をしてしまったので、あわててトロンが付け加えた
「あ、いいのいいの、役所ででも聞けばいいんだから」
「そっか、そうだよね」
すぐに笑って応えたので、トロンもほっとして笑った。
「あ、もうこんな時間・・・ごめんなさい、急がないと・・」
そう言うと彼女は、あわただしく荷物を持って行ってしまった。
「・・・・そうだ、あの子達・・・!」
コブン達のことを思い出して、トロンもホールへ急いだ。

「あー、トロンさまー、おかえりなさーい」
すでにホールではコブン達が待っていた。
「トロンさまー、アイスかっていいですかー?」
「ダーメ、ほら、もう帰るわよ。明日の予定も組まなきゃいけないんだし」
「はーい」
「トロンさまー、さっきあおいひとがきましたよー」
コブンの一人が何気なく言った。
「ここに?」
びっくりして聞き返すと、はい、と返事をして答えた。
「トロンさまによろしくいっておいてくれって・・・なんか、おじいさんといっしょでしたよ」
「へえ・・・・」トロンはなんだか嬉しくなった「ロックが・・・」
・・・いいとこあるじゃない、アイツ・・・そんなことを思いながら、健康ランドを後にした。

・・・・お母様、今日は大変な一日でした。
ロース一味のやつと出くわしたと思ったら、ロックとまで再会してしまいました。なんか、前よりも
かっこよくなってたように見えます。何でだろう?
そうそう、ライシップの婦警さん、警部補になったみたいです。大丈夫かな?
街の方に温泉があったので、入ってきました。新しい友達?もできて、楽しいです。
そう、なんと、あのディフレクター、3億ゼニーもの値段がついたんです。
しばらく楽に暮らせそうですけど、まだまだいろいろな問題が山積みで、ダウンしてしまいそうです。でも私がしっかりしないとダメなので、頑張っていこうと思います。


3 遺跡


「これだぁっ!!」
翌日の朝食の時、前夜からずっとチラシを眺めていたティーゼルがいきなり立ち上がって叫んだ。あまりの勢いだったので、その場にいた全員の視線がティーゼルに集中した。
ティーゼル本人は肩をわなわなふるえさせて、そのまま止まっている。
「お・・お兄さま?どうしました」
トロンがおそるおそる訪ねると、はっと我に返った。
「お・・おう、トロン、これを見てみろ」
そう言って、一枚のチラシをトロンに手渡した。
「はぁ・・・えーと・・・遺跡に入って高級住宅を当てよう・・・?なんですの、これ」
怪訝そうな顔をするトロンだったが、ティーゼルはかまわず続けた。
「もっとちゃんと読んでみろって・・・ほら、ここんとこ」
ティーゼルの指した所に書かれていたのは、こんな事だった。
・・・町外れで見つかった遺跡でディグアウトし、もっとも高価な宝を持ち帰った方一名に、当社製高級住宅をプレゼント。*月*日現在、権利取得者は*名です・・・
「これって・・・もしかして、大チャンスってやつですか?お兄さま」
トロンの表情が一変した。ディグアウターである自分たちには、またとないチャンスだからだ。
「だからな、早速今からでもその遺跡とやらに行ってみようと思うんだが・・・まぁ、メカがない。だから今回は俺と何人かのコブンだけで行こうと思う」
「解りましたわ。それじゃ私はドックの手配しておきます」
「おう、すまねぇな、トロン」
こうして、ティーゼルと数人のコブンは、町外れにある遺跡に向かった。
「さて、私たちも出かけるわよ。昨日のジャンク屋、行ってみないとね」
「はーい」

 遺跡は、街からさほど遠くない山の中腹にあった。辺りにはチラシを見たのか、ディグアウター達が集まっていた。
「はあ・・・まるで祭りだな、こりゃ」遺跡の前の広場を一望できるところでティーゼルがつぶやいた。「倍率高そうだな、こりゃ」
遺跡の入り口付近には、ジャンク屋の出張店舗まで出ており、各種パーツを販売していた。
「えー、お集まりのディグアウターの皆様、お待たせいたしました。ただいまより正面テントにて受付を開始いたします」
アナウンスが入ると、散らばっていたディグアウター達が一斉に集まってきた。
「お、急がねえとありゃあけっこう待つぞ」
しかしティーゼル達が着く頃には、すでにほとんどのディグアウターが受付を終わって、遺跡の中に入っていった後だった。
「あなた方で最後ですね。それでは説明いたしましょう」受付の係員は建築業者の社員なのか、スーツを着込んでいた。「遺跡内では基本的にルールは設けておりません。あなた方のやり方でディグアウトしてください。もちろん、リーバードとの戦闘も覚悟しておいてくだされば、幸いです。ディグアウトしたものはご自身のものにしていただくか、私どもに贈与していただき、最終的にもっとも高価なものをディグアウトしてきた方に我が社の誇る高級住宅を差し上げることになっております」
「おたくらは、この遺跡に何があるか知ってんのかい?」
ティーゼルの質問に、係員は首をかしげて答えた。
「いえ、私どもはこの遺跡にどんなトラップがありどんな宝が眠っているかにつきましては承知しておりません」
「そうかい、広さもわかんねえのか?」
「私が聞いたところによりますと、少なくともセントラルシティ並の広さはありそうですが」
「ほお、そいつはすげえ・・・んじゃいくぜ、ヤローども」
「おー!」
「健闘を祈ってますよ」

 「しかし・・・広いなぁ・・・無線持ってくれば良かった・・・」
ロックは、その辺にあったでっぱりに腰を下ろしながらつぶやいた。
「くっ・・・つ・・いてて・・・はぁ、いきなりあんなリーバードがいるとは・・・シールド壊れちゃったし、いったん戻るか・・」
エネルギーボトルの中身をあおり、立ち上がると、辺りに殺気を感じた。
「何だ・・・リーバードか・・・?」
ごごご・・・・低い地鳴りのような音が響くと、さっき行き止まりだと思った壁が上に開き、奥から大量の水が流れ出てきた。不用意に座ったでっぱりが、スイッチになっていたのだ。
「ちょっと、ヤバイかな・・・」
そう言いながらも、ローラーダッシュで必死にとばしていたが、凄まじい勢いで流れてくるので、今にも飲み込まれてしまいそうだ。
「高台も何もないのか・・・くそっ・・」
脇に逃れようにも、一本道なのでどうすることもできない。ついには、袋小路に追いつめられてしまった。
「うそおっっ!!!」
急ブレーキをかけ止まろうとした瞬間、水に飲まれてしまった。
「うわああああ!!!!」

 「うっ・・・く・」
気がつくと同時に、全身をひどい痛みが襲ってきた。水に飲まれた際にあちこちぶつけたらしい。
「ん?気がついたか」
男の声が聞こえる。これを聞いてはじめて、ああ、助かったのかと感じた。
「大丈夫か?傷だらけだぜ」
男の声は聞いたことがあった。確か、カトルオックスで。
「きみは確か・・ボーン一家の・・・」
激しい痛みに声を出すのもやっとだ。
「おう、覚えてたか、ティーゼルだ・・・しかし驚いたぜ、まさかおめえがいるとはなぁ・・・トロンが聞いたらびっくりするぞ」
「彼女には昨日会ったよ・・・ジャンク屋の前で」
起きあがることもままならず、横になったまま応えた。
「お?そうなのか?あいつ何も言ってなかったがなぁ・・・まあいい、これでも飲んで少し休め」
そう言ってロックに渡したのは、小さなアンプルだった。
「これは・・・?」
「ん?ああ、なんでも傷だけじゃなく体力も回復してくれるドリンクみてえだな。外のテントで売ってたんだ・・・リカバリィなんとかとかいったかな?」
「ありがとう・・・」
「なぁに、礼を言われるようなもんじゃねえよ」
ロックはドリンクを飲むと、すぐに眠ってしまった。
「どうも、こいつはいい金づるみてぇだからな・・・助けて損はねぇ」
ティーゼルはそんなことをぽつりとつぶやいた。

 造船所では多種多様な船が造られていた。ふつうのボートから飛行戦艦の一部まで、様々だ。確かに、ここならゲゼルシャフト号に代わる新造戦艦が造れるかもしれない。そんなことを考えながらトロン達は事務所に向かった。
「すいませーん」
事務所は思いの外明るく、衛生的だった。
「どうも。船の建造ですか?」
応対したのはまだ若い社員だった。
「ええ、こちらで造れるか伺いに来たんですけど・・・」
「それにはまず、図面が必要になりますが・・・お持ちですか?無ければよそのボートショップで注文していただくことになりますが」
「えっと、一応ここに持ってきましたけど」
トロンはコブンの持っていたケースから図面を取り出して社員に手渡した。彼はしばらくながめていたが、少しすると「少々お待ちください」と言って奥に行ってしまった。
「トロンさまー、だいじょうぶですかねえ?」
コブンの一人が心配そうに尋ねる。
「さあ?わかんないわよ、まだ」そう言って近くのソファに腰掛けた。「あれだけの艦だもん」
 しばらくして、さっきの社員が上司らしき人物を連れて戻ってきた。恰幅のいい、中年男性だ。
「お待たせしました、こちらの図面の制作者はどなたですかな?」
彼はそう言いながら、向かいのソファに腰掛けた。
「私ですけど、なにか?」
そうトロンが言うと、驚いた顔で「ほう、」とうなずいた。
「それはそれは、で、この図面に描かれた船ですが、申し訳ありませんが技術的に我が社では造ることが出来ません・・・しかしせっかくお越しくださったのですから、もし、そちら様個人で建造するのであれば、ドックをお貸ししますが・・・どうでしょうか?」
・・・これだけの船だ、ドックを貸すだけでもかなりの儲けになる・・・そう読んだ彼は、こう持ちかけてきた。
 トロンはしばらく考えていたが、やがて口を開いた。
「解りましたわ、そうさせてもらいます」
これを聞いた彼は、さも嬉しそうな顔をした。
「ありがとうござうます。で、早速ですが、どちらのサイズのドックをご希望でしょうか?」
そう言って一つのファイルを取り出した。造船などの価格表だ。
「こちら、一月20万ゼニーからとなっておりますが・・・」
彼が示してきたのは一番大きなドックだった。
「半年で105万ゼニーでもよろしいですよ」
トロンはこれには応えずに質問した
「材料の方はこちらで手に入りますか?」
「え?ええ、そりゃあもちろん、必要ならばいくらでもお売りいたしますよ」
さらなる儲け話に彼の顔には満面の笑みが浮かんでいる。この商談を成立させれば俺ももうこんな中間管理職とはおさらばだ!そんな考えが手に取るようにわかってしまう。そんな彼を知ってか知らずか、あくまでトロンは冷静だった。
「・・・解りました。じゃ、とりあえず半年で」
「はい、ありがとうございます!・・・それでは、こちらの用紙に必要事項のご記入をお願いします」
すでに契約書まで用意しているあたり、見上げた商魂である。

 「うー・・・ん、疲れたー・・・」
造船所を後にしたトロン達は、市街地の喫茶店で遅めの昼食をとっていた。
「ああいうのはやっぱ、お兄さまの方が上手よね」
サンドイッチのセットをつつきながらトロンがぼやいた。
「おつかれさまです、トロンさま」
コブン達はデザート類を食べている。
「まあ、これで船の方はどうにか算段がついたけどね・・・問題はメカよ、ドラッヘ一機あるのとないのじゃ全然ちがうからね・・・なんかいい案ない?」
パフェを口に入れたときに、いきなり話をふられたコブンはおどろいてむせてしまった。「げほ・・そうですねえ・・どこかひとのいないところでもあればいいんですけどね」
「・・・少なくとも町の中にはないわよね、そういうとこ」
頭の中で地図を調べてみたが、使えそうなところはなかった。
「いっそのことドックでつくっちゃえばどうです?ドラッヘぐらいならすぐできますよ」
と言ったのは開発担当のコブンだ。
「ま、詳しいことはあとでゆっくり話し合いましょう、お兄さま抜きじゃ決められないもの」
トロンはそう言ってカフェオレを飲み干すとすたすた会計のほうへ行ってしまった。
「そうですね」
コブン達もあとに続いた。食べかけのフルーツを名残惜しそうに眺めてからあわてて後を追うコブンもいる。

 市街地をしばらく歩き、商店街に出た。昨日行き損ねたジャンク屋に行くためだ。
 「・・・それにしても、なんか入りにくいわね、ここ」
あらためてみると相当なものである・・・看板は傾き、壁にはひびがはしっている。そしてなにより、入口から中が見えないのだ。
「本当にやってるのかしら?」
入口に営業中の札が出てはいるが、どうしたものか。意を決して扉に手をかけ、思い切って開けてみた。すると、思ったより軽く開いたのだ。
「いらっしゃい」
中にいたのは、小さな老人だった。顔中しわだらけでどこが目なのか解らないほどだ。
彼はトロンを見ると、鼻の脇のしわを開いて(トロンにはそう見えた。そこに目があった)、「おや、」とつぶやいた。
「なんか今日はお嬢さんばかりくるのぅ」彼は真っ白なひげだらけの口を動かした。「なんかあったんじゃろうか?」
「お嬢さんばっか?」しかし、トロン達の他には客らしい人影が見えなかった。「どこに?」
と、店の奥から声がした。
「おじいさん、これとこれもらうね・・・あれ?」
そう言いながら奥から顔を出したのは、昨日の少女だった。手にはいろいろなパーツを抱えている。
「あなた、昨日の・・・」

 「しかしよう、何だっておめえらがこの島にいんだ?もっと遠くまで飛べただろ?」
たき火の向こうからティーゼルがロックに問いかけてきた。ロックは、ティーゼルの持ってたアイテムのおかげでもうすっかり良くなっている。
「フラッター号・・僕らの船だけど、あれがね、けっこう古いやつで・・・完全に壊れる前にきちんと直しておこうってことになってね、一番近かったここに降りたんだよ」
「ほう、あの船がねぇ・・・そうは見えなかったがなぁ、あん時は」
ティーゼルが言うのは、カトルオックス島での空中戦の時のことだ。そのときにロックが放ったグランドグレネードに機関部をやられ、ゲゼルシャフト号は空中で四散した。
「よっぽど高性能なんだな、その船・・・って、それじゃお前がこの遺跡にいるのはなんでだ?家でも手に入れようとしたのか?」
「ちがうよ、あのチラシを見る前にここには来てたんだ。船のパーツになるものがないかと思ってね」たき火をつついて火を調節しながら続けた「だけど、なかなかいいものがなくて・・・今日見つけた通路の先が怪しいとは思うんだけど」
「んじゃ、なんでこんな所で倒れてたんだ?」
ティーゼルの問いかけには答えず、ロックはあることを思いついた。
「そうだ、あの道はずっと下りだったんだから、もしかしたら・・・」
「あん?なんだ、話が見えねえぞ」
不思議がるティーゼルに気づいて、「ああ、ごめん」と言ってから詳しい話を始めた。

 「・・・と、言うわけで、多分、この水があった所に別の通路があるはずなんだ」
「ほう、そいつは怪しいな・・・だったらこうしちゃいられねえぞ、早く行かねえと他の奴らに先を越されっちまうじゃねえか!」
そう言うと、寝ていたコブン達をたたき起こした。
「よっしゃ、案内してくれ、ロック」
ティーゼルはなぜか自分の事のように張り切っており、「僕が見つけたんだけど・・・」と言うロックの小さな抗議の声も聞こえていないようだ。
「ああそうだ、もしもすげえお宝があったら俺達にくれねえか?」かなり無茶を言う人である。「そのかわりと言っちゃあ何だが、一千万ぐれえまでなら支払ってやってもいいぜ、船の修理代」
「えっ!?・・・今、なんて・・・?」
さらりととんでもないことを言われたので、さすがのロックもおどろいてしまった。
「いや、だから一千万ゼニーぐらいなら、俺達が肩代わりしてやるって言ったんだよ」
「なんでまた、そんな一千万も僕らに・・?」
あの空賊のティーゼルが言っていることだ、そう簡単に信じ込んでもいいものかとロックは思ったのだ。
「ん?・・ああ、いや、なに、おめえのおかげで儲けることが出来たようなものだからな、恩返しってわけだ」
ティーゼルの説明はしどろもどろだ。あのディフレクターのことを言うわけにはいかないからだ。
 そんな彼を見てうさんくさそうに感じながらも、一応、ロックも承諾した。

 案の定、ロックを押し流した水は全て流れ出ており、水が溜まっていたであろう部屋の中には奥に続く扉があった。
「これか・・・他の扉とは雰囲気が違うな、大型リーバードがいるかもしれない・・・」そう言ってロックはティーゼル達を見た。「武器を装備しておいた方がいいと思うよ」
「そうだな、ヤローども、戦闘準備はいいな?各自自分の身は自分で守るように!」
コブン達に命令しながら自分の武器を点検したティーゼルだったが、
「おや?まずいな、エネルギーが尽きかけてやがる・・・おい、予備のエネルギー持ってるか?」武器のエネルギーが無くなりそうだった。
「えーっと・・・すいませーん、ありません」
それぞれのコブンが自分たちの荷物を調べたが、一人として持っていなかった。
「っかーー、何やってんだ!あれほど調べとけって言っといたのに」
「まあまあ、ハイパーカートリッジならさっき見つけたから使ってよ」
ロックの助け船で、コブン達はティーゼルに叱られずに済んだ。
 「じゃあ、開けるよ」
扉を開けた先には巨大な空間が広がっていた。ちょうど、カトルオックス島の地下都市の様な感じだ。
「これは・・・」
「しんどいな・・・」
「が・・・がんばるぞー」
そこにいたのはハンムルドールをはじめとする大量の大型リーバード達だった。

 「ふーん、それでこの島に・・・」
トロンと金髪の少女・・・ロールは、ジャンク屋ですっかり打ち解け、お互いの身の上話(?)に花を咲かせていた。
「お互い大変よね、ディグアウターって」トロン達はロールの家兼飛行船でゆっくり話をしようということになり、郊外の空き地に向かっていた。「お金もかかるしね」
「一人じゃ修理大変でしょう?この子達貸してあげようか?」
「いいよ、けっこう楽しんでやってるんだ、まだいろいろ解らないこともあるしね、自分たちの船なのに・・・これよ、フラッター号」ロールの示した船は、見たことがあるような船だった。「ちょっと待ってて、すぐ片づけるから」
「この船、どこかで・・・・」
先に行ってしまったロールはそんなトロンには気づかなかった。
「あれー?このふねって、あおいひとがのってたやつじゃないですか?トロンさま」
コブンの一言で、トロンの胸をいいようのない不安感が襲ってきた。自分でも信じられないほどに。
・・・なんで、なんでこんなに不安になるの?別にいいじゃない、ロックが誰と一緒にいても・・・
「終わったよー。ん?どうしたの?」険しい顔で船を凝視しているトロンに、心配そうにロールが声をかけた。「なにかあった?」
「あ・・ううん、なんでもない」
そう笑ったトロンの顔は、どこかぎこちなかった。
 「あん?なんだ、トロンじゃねえか」突然、後ろからティーゼルの声が聞こえた。「どうしておめえがここにいんだ?」
突然の兄の登場にトロンはかなりおどろいた。しかも、ロックと一緒だったのだ。
「お兄さま・・・ロック・・」
トロンがロックの名を呼んだので、今度はロールがおどろいた。
「あれ、知り合い?ロック?」
「ああ、話してなかったっけ・・・なんか、いろいろあって混乱しそうだな」ロックは三人の顔を交互に見ながら言った「まあいいや、とりあえず上がってよ、詳しい話もしたいし・・・」
ロックが言い終わらないうちに、トロンが口を挟んだ。
「私、帰るね・・」
うつむきながらそう言うと、逃げるように行ってしまった。
「お、おい、トロン!・・・なんだぁ?あいつは」失礼とも言える妹の態度に、ティーゼルは動揺を隠せなかった。「どうしちまったんだか」
 走り去るトロンを見てロールは、同じ女性としての何かを感じ取っていた。
・・・ロックってば、不器用だから・・・思い詰めてなければいいけど、トロン。

 トロンは船に帰るなり、自室に閉じこもってしまった。いつもと違うトロンに、コブン達もおろおろするばかりだった。
「どうしたのかな?トロンさま」
「ないてるみたいだったよ、だいじょうぶかな?」
そう口々に言いながらトロンの部屋の前をうろうろしているだけだった。

・・・お母様、今日ほど自分が嫌になった日はありませんでした。
なんであんなことしてしまったんだろうって気持ちでいっぱいです。
あの場所にいると、胸が詰まりそうな気がして、思わず逃げて来ちゃったけど、
やっぱり、あんなことするべきじゃないですよね。
でも、どうしてあんな気持ちになったのか、自分でも解らないんです。
あとで謝らなくちゃいけませんね。
今日はもう休みます。すこし疲れてしまいました。

 「・・・はぁ、ホント、いやんなっちゃう・・・」
トロンはそのまま眠ってしまった。

 その晩、ティーゼルが帰ってきたあともトロンは顔を出さなかった。
「ティーゼルさまー、トロンさまはどうしちゃったんですか?」
「さあなぁ・・・いろいろあるんだろ、あいつも一応女だからな・・・ああいうときは、ほおっておくのが一番さ」
 トロンに夕食を届けに行ったコブンが戻ってきたが、トレーの上のものには手をつけた形跡は見あたらない。
「トロンさま、ごはんもたべないで・・・」
いつも忙しい料理長もこれには心配しているようだった。
「気にするな、腹がへりゃあ出てくるさ・・・それより、船の方はどうなんだ?」
ティーゼルに励まされ、コブン達が今日の出来事を話し始めた。

 翌日、ティーゼルはカバンに大金を詰めて出かける支度をしていた。
「まったく、あいつら銀行に口座の一つも持ってねえってのはどういうことだ」
約束通り、ロック達に寄付する事になったためだ。
「まあ、あいつのおかげでお宝は手にはいるし、このままいきゃあ、家も手に入れられるしな・・・よしとするか」
昨日の遺跡で、リーバード達を蹴散らし部屋の中央にあった大型ディフレクターを手に入れたティーゼル達はそれを建設会社に渡し、詳しい話をしよう、と言うことでフラッター号に行ったのだった、そこにトロン達がいて、あのようなことになってしまったのだ。
「さて、そろそろ行くか・・・っと、その前に」
ティーゼルは出かける前にトロンの部屋の前で扉越しに話しかけた。
「トロン、俺はこれからロックん所に行ってくるが・・・お前はどうする?」
少しして返事が返ってきた
「・・・行きたくありませんわ」
「そうか、解った・・・あまりコブン共に心配かけるなよ」
そうしてティーゼルは出かけていった。

 ・・・なんで、ロックがロールと一緒にいる事を考えるとこんなに辛いんだろう・・・ロールのことを知らなかった時の苦しさとは違う・・・
トロンはベットの中でいろいろ考えていた。
・・・もしかして、私・・・
そして、あることに気がついた。
「!!そうよ、あのコ達が一緒にいるのが嫌なら、引き離しちゃえばいいんじゃない!」
そう言って飛び起きると、急いで机に向かった。
「何でもっと早く気がつかなかったのかしら」
紙の上には凄まじい早さで幾本もの線が描かれていく。そうして、ついにある形ができあがった。
「開発班!!」
部屋の扉を勢いよく開け、開発コブンを呼び出したトロンは、闘志に満ちあふれていた。
「はい、なにかごようですか?トロンさま」
声を聞きつけた開発班長がやってきた。トロンが元気になったので張り切っている。
「このメカを大至急造ってちょうだい・・・例のドックでいいわ・・船より先に造っちゃって!」
トロンの声にはただならぬ気迫が込められていた。
「このメカですか、わかりました、いっしゅうかんもあればじゅうぶんです」
「頼んだわよ」
開発班を集めて出かけていくコブンを見送りながらトロンはある計画を立てていた。

・・・お母様、私、ロックのことが好きだったみたいです。
ロールがいたおかげでそのことに気がつきました。
もう手段なんて考えていられません、力尽くで手に入れてみせます。
だから力をくださいね。

 一週間後の早朝、まだ日も昇らないうちにトロンと戦闘コブン達は町からだいぶ離れた高原に来ていた。
「いいわね、作戦通りきちんとやるのよ」
「はーい!」
「この作戦が成功したら、たんとごほうびあげるからがんばるのよ!」
トロンの一言でコブン達も俄然やる気を出した。
「おー」
「がんばるぞー」
そのコブン達のかけ声に誘われたのか、太陽が昇り始めた。
「よし、作戦開始!!」
「らじゃー!!」
コブン達が一斉に持ち場へ散らばっていく。その様子を満足そうに見ながら、トロンが振り向いた。
そこには、朝焼けに照らし出された一体のメカがいた。赤い機体が陽光を反射してまぶしく輝いている。
トロンはゆっくりメカに近づきながら、一言言った。
「いくわよ、ヤクト・クラベ!」
長い一日が、始まった。
「続・ロックマンDASH」
〜Toron´s Diary〜