ある日の俺的 61



一日遅れ。



サブレとタルトが通うひまわり保育園。
ちょうど七夕の時期なので子供達が飾り付けに精を出しております。
子供を狙った凶悪な事件が続発する最近でも平和な日々を過ごしていました。



(サブレ)「せんせー、おりがみなくなっちゃたよー」
(保母A)「あらほんとだ・・・どうしようか?」
(壮)「んじゃひとっ走り行ってきますか?」
(保母A)「うん、おねがい」
(壮)「へ〜い」

チャリンコで買い物に出かける壮。
小間使い的仕事でもきっちりとこなしております。

(壮)「折り紙3つか・・・糊も買っておくかな」

と、ちょっと走った所で奇妙な男とすれ違いました。
身なりはきちんとしてる様ですがどうも違和感を憶えます。

(壮)(んぁ? ・・・なんだありゃ・・・・・・まぁいいか)

少し気になったものの、そのまま通り過ぎてしまいました。



一方、年少組では新たな折り紙が届くまで短冊に願い事を書くことにしたようです。
どの子も真剣な眼差しで考えております。

(保母B)「何て書いたの?」
(タルト)「えっとねー、はやくおっきくなりたいってかいたの」
(保母B)「大きくなったらどうするの?」
(タルト)「だんちょーのおよめさんになるんだよぉ」
(保母B)「そうなんだ〜・・・なれるといいね」
(タルト)「やくそくしたも〜ん」

どうやらあの時の「お嫁さん宣言」は冗談じゃ無かったようです。

(保母C)「羨ましいわ〜・・・子供って・・・」
(保母A)「そうねぇ・・・現実は厳しいよねェ〜・・・」


そうこう言っている間に表で物音がしました。

(保母C)「あ、帰ってきたかな?」
(保母A)「それにしては早いわね・・・?」

結構人気があるのでしょうか、数人の子供が壮を迎えに行こうと走っていきます。

(子供A)「おかえりなさ〜・・・」

しかし、そこに立っていたのは壮ではなく、先程の男でした。

(子供A)「い・・・?」

少しびっくりした子供達を感情の無い眼で見下ろす男。
両手には冷たい光を湛えた短刀が。

(男)『・・・穢れ無き13の星を墜とす・・・・・・まず、3つ・・・・・・』

ほとんど口を動かさずにそう言い、短刀を振り上げます。

(保母A)「何をしているの!!?」

一瞬男の動きが止まった隙に教室へ逃げ込む子供3人。
それを目の端で追いつつモップで男を牽制してます。

(保母A)「出て行きなさい!!」
(男)『・・・退け、さもなくば斬る・・・・・・』
(保母A)「じょーとぉー!!」



(保母C)「電話が通じない・・・」
(保母B)「携帯は職員室だし・・・早く帰ってきてぇ・・・」

(サブレ)「どうしたの?」
(タルト)「わかんない・・・おにいちゃんじゃなかったのかなぁ?」

騒然とする教室でパニック寸前の子供達。
廊下からあまり好ましくない音が時々聞こえてきます。

どがぁっ!!!

前方の扉を突き破って何かが飛び込んできました。

(子供B)「せんせー!!」
(子供C)「ぅあ〜・・・」

モップが真っ二つに折れ、あちこちから出血しています。
子供達の何人かはとうとう泣き出してしまいました。

(サブレ)「・・・あ・・・あぁ・・・・・・」

血を流して倒れる保母と記憶の隅にかすかに残っていたイメージが重なってサブレの顔が見る見る蒼白になります。

そこへ男が侵入してきました。
振り回した短刀に手近にいた子供が何人か巻き込まれて倒れ込みます。

(保母C)「逃げなさい、早く!!」
(保母B)「やめてぇー!!」

一瞬にして凄惨な光景に変わり果てる教室。
尚も他の子供へ襲いかかる男へ不意に何かが発せられました。

(男)『・・・・・・?』
(タルト)「・・・こどもをひょうてきにするのはさいていだって・・・だんちょーがいってたもん・・・」

ぐったりした子供の脇でタルトが呟いています。

(タルト)「やっつけてやる!!!!」

涙を浮かべて叫び、瞬時に周りの子供の傷が癒えます。
魔力の奔流で髪が逆立ち、レディ・ババロアにも負けない気迫が。

(男)『面白い・・・』

人間とは思えない瞬発力で接近する男。
しかし振り下ろした短刀は虚しく宙を切り裂きました。

(タルト)「ぼるとすとらいく!!」

(タルト)「ふれあすとらいく!!!」

よろけた男の頭上に雷が落ち、背後から灼熱の火炎弾が直撃します。

(タルト)「らいとにんぐ・う゛ぇすぱ!!!!!!」

教室の壁を突き破って園庭にまで吹っ飛ぶ男。
あれ程の攻撃を受けたにもかかわらず肉体はそのままでしたが。



(タルト)「せんせー・・・だいじょうぶ?」
(保母A)「タルトちゃん・・・あなた・・・」

先程までの様子と打って変わって情けない顔になるタルト。
まだ完璧に制御できるワケでは無いみたいです。


と・・・

(保母B)「いやぁ!!」
(保母C)「うそ・・・生きてるの・・・?」

黒こげのまま立ち上がる男。
その殺気はさっきまでとは比べ物にならないほど凶悪になっています。

(男)『・・・子供相手に油断した・・・まさかこれほどの魔術師が居るとはな・・・』

(タルト?)「魔術師? 魔導師って呼んで欲しいわね」

突然タルトの雰囲気が変わりました。

(タルト?)「混沌の尖兵ならババロアの名前くらい知ってるハズよね?」
(混沌兵)『成る程・・・だが言葉には注意しろ・・・』

唐突に火炎弾を吐き出す混沌兵。

(タルト?)「ふん・・・やっと試し撃ち出来るわね!!」

腕の一振りで炎をかき消して笑みを浮かべてます。
ババロアが乗り移ったんでしょうか?

(混沌兵)『・・・何!』
(タルト?)「奴に伝えなさい、無駄なことは止めろってね!」

そう言って腕を振り上げるタルト。
昼間の空に無数の星が煌めいてます。

(タルト?)「ミルキー・ウェイ!!」



文房具屋から出てきた壮。
チャリンコに跨って空を見ると、妙に光ってるところがあります。

(壮)「異常気象か・・・? って、保育園の方じゃん!!」

その体勢のまま瞬間移動しました。

(壮)「・・・なんじゃこりゃあ」

教室の壁は崩れてガラスは木っ端微塵。
床には血痕と折れたモップ。
園庭には力を使い果たして眠っているタルト。
その前には奇妙な姿をした影が焼き付いていました。
無論、七夕飾りなど消し炭に変わり果てておりまして。

(壮)「・・・折り紙、もっと必要かな? あと笹も・・・」

わけわからんと言った顔で誰にともなく呟く壮でした。



続く。






(タルト)「・・・あれ? わるいひとは?」




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